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「確かに俺はお前に貸せる程度のメスを持っている。けど、正直に言えば貸したくない。なぜならば、俺はお前とはいい関係でいたいからだ。確かに、マネーブリーディングの世界に誘い込んだのは俺だ。その責任を感じないわけじゃない。助けてやりたいと思う」
先輩はゆっくりと、俺に言い聞かせるように言葉を続けた。
「だが、お前は今回飼育でミスを犯した。分かるな?」
「はい……」
「そのミスを埋めようとして、俺からの借金を思いついたわけだ。一番手っ取り早い方法だ。だが、そのリスクの大きさをお前はちゃんと理解しているか? 万が一のことがあった場合、俺とお前の間に残るしこりについて考えたか?」
先輩の言葉は、俺の心を直接殴りつけてくるようだった。
そうだ、俺はなんて浅はかだったんだ。繁殖させることばかり考えて、最悪の展開について考えていなかった。
「すみません。オスの一万円札を無駄死にさせたくないばっかりに……」
「その気持ちはよく分かる。誰だって焦るもんだ。だが、そういう時こそ立ち止まって、周りを見なくちゃいけない。この一回を乗り越えたとして次はどうする? 千円札達が一万円札になっても、また全部オスなんだろ? その時にまた借りるか? 安易な借金を繰り返せば、いずれはぶち当たるぞ、最悪の事態に」
「……その通りです」
「悪いが、一万円札は貸せない。良いな」
「はい」
考えが甘かった。電話をかけたことを僕は激しく後悔していた。
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