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朝。
僕はいつもの様に水槽の中をチェックする。
空になった一万円札の水槽。五千円札の水槽も相変わらず空のままだ。
それに対して、賑やかになったのは千円札の水槽。
千円札用の水槽を二つ追加で増やしてしまったほどだ。
先輩の言わんとしていた事を必死で考えた末、僕は一つの結論を導き出した。
やはり先輩は両替をしろと言ってくれていたのだ。
ただし、一万円札を手に入れるためではなくその逆。一万円札を持って行き、それを崩して貰えと言っていたのだ。思わせぶりな言い方をしたのは、僕の思考がメスの一万円札を手に入れる方向に凝り固まっていたから。きっとそれを崩すには自分で思いつかせるしかないと思ったのではないだろうか。
繁殖までの時間が伸びたことに変わりはないが、足並みはそろった。しかも、一枚の死に金も増やすことなくだ。一気に百枚以上の千円札を手に入れたおかげで、メスも何匹かは混じっていた。
これをきちんと育てれば、きっと前よりも安定した飼育環境が整えられるのではないか。
そんな期待感すら持てる。
「とはいえ、やっぱやりすぎたかな……」
両替は金額ではなく、交換した枚数に応じた手数料を取られる。
千円札を一万円札にするときよりも、一万円札を千円札にするときの方が金がかかるというわけだ。
今回は一万円札を全部千円札に両替したので、両替手数料もなかなかの痛手だった。半分ぐらいは五千円札にしても良かったかもしれないと思うほどだった。
先ずはこれを取り戻すことから考えよう。
「さあ、元気に育てよ」
僕は水槽の中に餌を放り込んだ。
千円札達が我先にと群がる姿を眺めてから、自分の朝の支度を開始する。
今日もいい天気になりそうだった。
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