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 おやつの日がなくなれば、お姉ちゃんがお菓子を作ることはもうないのだろう。  弟がお姉ちゃんのおやつに難癖を付けた直後、私は勝手に予想したのだけれど、現実はそうじゃなかった。  お姉ちゃんは今も、以前と変わらずお菓子を作っているし、それを自分と先生とで食べているらしい。 (お姉ちゃんは自分のおやつを作ってるだけ。それはおやつの日があった時から変わってないんだよね)  彼女にとって、私達きょうだいにおやつを用意したのは、あくまでも自分のおやつを用意する"ついで"に過ぎなかったのだろう。  ただ、今はその"ついで"の対象が、私達から先生に変わっただけだ。  でも、私はそれが気に食わなかった。 (アズサがワガママを言わなければ、私は今でもお姉ちゃんの作ったおやつを食べられたのに)  弟のせいで、理不尽にも何故か私までもが食べられなくなった、お姉ちゃんの作るおやつ。  それをポッと出のあの先生(ひと)が食べているのは、なんだか面白くない。  それに、先生について気に喰わない理由は、他にもあった。  おやつの日がなくなってから、一度だけ、お菓子を作っているお姉ちゃんに、文句を言ったことかある。  ――お姉ちゃん。先生にあげるお菓子を作るのなら、私の分も作ってくれたっていいじゃん。  すると、お姉ちゃんは、駄々を捏ねるアズサに向けるのと同じ笑顔を見せて、首を横に振った。  ――ちょうどいい機会だから、もう暫く私のおやつは我慢して、お小遣いの使い方を学びなさい。    ほら、オーブン皿が危ないから逃げて。  言われるがままお姉ちゃんと距離を置き、遠巻きに彼女の姿を見る。  オーブンから取り出された角皿には、出来たてほやほやのマドレーヌがいくつも載っていた。私と弟におやつを作っていた時と同じ量だ。  さり気なくそれを指摘すれば、お姉ちゃんはどういうわけか、頬を赤らめた。  ――先生がね、「おいしいです、ありがとう」って、本当に嬉しそうに食べてくれるの。だから、ついいっぱい作っちゃって。  この時、私は悟ったんだ。  お姉ちゃんには、私と弟以外に、お菓子を作ってあげたい人ができたんだ、って。  それがなんだか、先生に私の大好きなお姉ちゃんを横取りされたように思えて、それ以来、私はすっかり彼のことが嫌いになってしまったのだ。
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