クイーンパラドックス

3/16
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
元同級生のシェイマス・アンダーソンが声をかけてきたのは、私がボックス席のソファーにこぼれていた何度拭いてもベタベタするパンケーキシロップにげんなりしているところだった。シェイマスは私の家族がまさにスキーで滑り落ちるように一瞬で転落した後も、私がこのダイナーで不遜で無礼な男どもにお尻を撫でられたり追いかけ回されたりすることがなくなった今も態度が変わらない私にとっては貴重な友だちだ。シェイマス自身は大学を卒業して化学だかなんだかで博士号を取って、この二十年で私にはなんだかよく分からない特許をいくつも持ち億万長者の仲間入りをした。パソコン部でオタクで分厚いメガネをかけていた高校時代のシェイマスの面影なんて一つもない。なのにこんな田舎町に最近になって時々やって来る。私みたいに面倒を見なきゃいけないアルコール依存症の母親がいるわけでもないのに。 「シェイマス。久しぶりね。ここの不味いコーヒーが懐かしくなったの?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!