お金がなくとも食べていけるには訳があるのだ

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「お金がないっ!」  長めの前髪を勢いよく振り払い、通称"サブ"は叫んだ。  部屋にいた仲間たち4人が、一斉にサブを見る。 「なにをいまさら」  窓際のデスクで本を読んでいた"シュウ"が冷めたように言った。眼鏡に白いシャツ。生真面目そうな風貌の少年だ。 「この間の報酬はどうしたよ、結構な額だったはずだぜ」  パソコンのキーボードを叩き、"パル"が聞く。前髪をツンツンと立て、タンクトップ姿の小柄な少年。 「んなもん、溜まってた電気代、水道代、家賃を払って、いつもご飯を分けてくれる隣のおばちゃんにお礼して、近所のガキどもになんかいろいろやってたら、あっという間になくなった」  ノースリーブのシャツの袖から伸びる腕を組み、サブは憮然と言った。 「サブらしい」  やわらかく波打つ髪を揺らし、長身の"ハヤ"がくすくすと笑う。  サブは半ば途方に暮れたように上を見上げた。 「あーったく、これ以上バイトは増やしたくねえんだけどなー」 「あきらめろ、お前は貧乏神に溺愛されてんだから」  シュウの隣で日向ぼっこをするように窓にもたれていた"リーダー"が、からかうように言った。なかなか見栄えのいい顔立ちの少年だ。  サブはリーダーを見た。 「貧乏神が美女なら許す」 「残念、貧乏神はたいてい男だ」 「うれしくねー」  サブは脱力した。サブ以外、みんなが笑った。 「パル、次の仕事の依頼はきてねーの?」 「ああ、サブ、まだ来てないね」 「あー!!しょうがないっ!!バイトで地道に稼ぐかー」  サブは椅子から立ち上がった。身長の低さを感じさせない身軽な動きだった。肩を回し、首を左右にコキコキと鳴らす。 「11歳そこらの俺ができるバイトの稼ぎなんて、たかがしれてるけどな。さあて、やるかー」  サブはそうひとりごちながら部屋を出ていったが、口調の割に足取りは軽く、元気があふれていた。  バイト先へ駆けていくサブの姿を窓越しに見送ったリーダーは、口元を緩めた。 「あいつは人だけじゃなく、神様までたらし込むってな」  ハヤがにっこりと笑う。 「サブの人たらしっぷりは、天賦の才だよね」  パルがパソコン画面を見たまま、思い出したように言う。 「そういえば、このあいだ、両手いっぱいにじゃがいも抱えててさ、どうしたのかって聞いたら、お金がなくて野菜が買えないって言ったら八百屋のおじさんが持ってけってくれたんだ、とさ」  リーダーも相槌をうつ。 「似たような話で、ケーキもらってたな、あいつ」  シュウが本を読む手を止め、顔を上げた。 「定食屋の店の手伝いして、現物支給で定食食べさせてもらってもいた」  4人が目を合わせた。 「「「「 あいつ、金がなくても食っていけるな 」」」」 end.
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