変わらない想い

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 江東裕也、高校2年生。勉強の成績もスポーツも平凡なごく普通の高校生だか、友達に勉強でわからないところを教えてあげたり、なけなしの小遣いでジュースやパンをおごってあげたりと優しい性格の持ち主で、クラスはもちろん、他のクラスからも信頼されていた。  そんなある日の放課後、この日はたまたますべての部活が休みで、裕也は昇降口付近の自動販売機のそばで、ある人と待ち合わせをしていた。  「ごめんなさい、待った?」  「ううん、全然!」  入学した頃から付き合ってきた彼女、槍崎晴香(うつぎざきはるか)である。裕也はバドミントン部に、晴香は美術部にそれぞれ所属していたが、部活がない日や部活が終わった後はこの自動販売機のところで待ち合わせをして、一緒に帰るのが日課になっていた。晴香もまた裕也と同じように誰にでも気配りや思いやりがある優しい性格で、そんな彼女の人柄に惹かれて告白して以来、裕也と晴香は学年の誰もが注目するほど、まさにラブラブなカップルだった。  帰宅後には、宿題の後お互いメールを交わし、最後におやすみを言ってから寝るのが2人の習慣である。そして休日には、わざわざ路線バスに乗ってまで隣町に映画を観に行ったり、服を買いに行ったり、レストランやカフェに立ち寄ったりと夢のようなひとときを過ごしていた。  「あー今日も楽しかったわね。また行こうね!」  「そうだな!また行こう!」  そんな幸せな交際が、いつまで続くと誰もが信じて疑わなかった。  付き合いはじめてちょうどまる2年、まもなく高校3年生になろうとしていた時のことである。裕也のケータイに、一通の電話がかかってきた。晴香の母親からだった。不審に思いながらも電話に出た裕也が聞いたのは、予想だにもしていなかった出来事だった。  なんと、最愛の晴香が交通事故で亡くなったという知らせだった。あまりにも突然の知らせに、裕也は頭が真っ白になった。嘘だ、そんなバカな、絶対嘘だ。晴香が死んだなんて嘘だ!  そう疑いながらも、裕也は慌てて家を飛び出すと、真っ先に晴香の家に向かった。  ようやく晴香の家に到着した裕也がそこで見たもの、それは我が目を疑うものだった。布団の上には守り刀が置かれ、顔には白布がかけられ、枕元にはお膳と1本の白菊、線香が置かれていた。  なんの躊躇いもなく白布をめくった裕也は、しばらく息を呑み、それから涙を流しながら亡き晴香に語りかけた。  「晴香、昨日メールで今度の春休みにディズニー行こうって約束したばかりじゃないかよ。どうして急にこんなことになったんだよ…」  そう言うと裕也は今までにない大きな声で泣き出した。それを見た遺族や親戚も、ハンカチで涙を拭っていた。  告別式は晴香の死の3日後に行われた。焼香し、僧侶によるお勤めが終わり、棺に花や手紙を入れてお別れをし、最後に棺に釘が打たれた後、裕也は晴香への愛のメッセージを伝えた。  「晴香、今まで2年間、俺と一緒にいてくれてありがとう。放課後一緒に帰ったり、休みの日に買い物や映画、それからご飯に行ったりできて本当に楽しかったよ。あまりにも早い別れで残念だよ。一緒に卒業して、そして結婚したかったよ。本当に悔しいよ。  でも一緒にいられた時間は、俺たちにとって最高の宝物だよ。これからは俺一人になるけど、晴香の分まで、勉強も部活も、今までより一生懸命頑張るからな!そして、精一杯生きるからな!今まで本当にありがとう!天国でゆっくり休んでな。大好きだよ!」  メッセージを読み上げると、裕也は手紙と花束を棺に手向け、静かに手を合わせた。メッセージを聞いた遺族親族、一般会葬者からは、次々にすすり泣きの声があがった。裕也も顔を涙に濡らしながら、元の席に戻った。  そして出棺の時。霊柩車に棺が乗せられると、裕也はもう一度手を合わせた。そして霊柩車と火葬場に向かうバスが出発すると、裕也は式場を後にした。  それから1週間後、裕也は再び晴香の家を訪ねた。晴香の遺骨と位牌の前に線香を供えると、裕也は晴香の母親からお礼を言われた。  「裕也君、この間は晴香へのメッセージと花束本当にありがとう。あなたが来てくれて、晴香もきっと喜んでいるわ。まだ辛いでしょうけど、これから勉強や部活、頑張ってね。」  それを聞いた裕也は再び泣き出した。そして、晴香の仏前に向かって「じゃあな。また来るからな。」と声をかけると、晴香の母親に深くお辞儀をし、晴香の家を後にした。  晴香の死から1年。裕也は無事卒業が決まり、進学する大学にも合格した。そろそろ一周忌である。ちょうど1年目の命日に晴香の家を訪ねた裕也は、仏壇に線香を供え、「晴香、俺無事大学受かったよ。これからもずっと見守っててな。愛してるよ。」と声をかけると、亡き恋人の分まで精一杯生きようという決意を胸に、家路についたのだった。 (終わり)
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