ジャスティテイカーの憂鬱

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 春の街を歩きながら、俺は途方に暮れていた。  午前中とはいえ天気は良く、歩いているだけで体は暖まってくる。  だが、懐具合は寒いの一言に尽きる。  ポケットには千円札が一枚だけ。これだって、お小遣いで貰った物の残りだ。  俺の金など一銭もない。  なぜ俺がこんな惨めな目に遭うんだ。 「くそ、アイツらが暴れないからだ……」  ヤミノス団への愚痴を呟きつつ、あてどもなく歩く商店街。  ふと、鼻をくすぐる香ばしい匂いに気付いた。出所は肉屋の店先だ。テーブルクロスをかけたワゴンだかテーブルだかがあり、その上に乗せたホットプレートで何か焼いている。ホットプレートの上にある何かを菜箸で焦げないように動かしながら、声を張り上げて試食を呼び掛けている女の子がいる。 「試食いかがですかー。美味しい焼肉、今晩のおかずにどうぞ。タレに付け込んであるので、フライパンで焼くだけ、美味しいですよー」  その子の顔に細やかな見覚えを感じた俺は、物陰に潜みしばし様子を窺った。 「あれは……クレオライナ?」  普段の濃い目の化粧と露出度が高い衣装ではなく、ナチュラルメイクに割烹着に三角巾という出で立ちなので判別に時間がかかってしまった。だが、このジャスティアイは見逃さない。あれはヤミノス団最高幹部の一人、クレオライナだ。 「こんなところで何を企んでいる?」  久し振りに本業が出来る。  そのワクワク感から、すぐにでも彼女の前に仁王立ちして問い詰めてやりたい。  だが、俺は我慢することにした。このまま様子を窺っていれば、いずれ何らかの悪事を働くはずだ。その瞬間を押さえ、言い逃れ出来ない状態に持って行かねば。  ジャスティアイは間違えないに決まっているが、やはりやや心配だった。  ひょっとすると、限りないそっくりさんかもしれない。  肉屋の向かいにある喫茶店に入り、俺はコーヒーを頼んだ。  一杯五百二十円。萎びた商店街の一角にあるくせに、なかなかいい値段取りやがる。  幸い手元には千円があるので、この支払は問題ない。  窓際の席を陣取って、俺は監視を開始した。
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