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「皆に集まってもらったのは他でもない……嘆かわしいことに、我が校の生徒会執行部の中である疑いが浮上し」
「ポットを買う金がなくなったんだろ」
「何故俺の台詞を遮る柴山!?」
「お前の前置きは長いんだよ、毎度毎度」
「そうよねぇ……いつもならキャラってことでスルーすればいいけど、さすがに緊急会議で中二病を振りかざされてもねぇ……」
「中二病とか言うな!! さすがの俺も今回に至っては大真面目だ!!」
「あぁ、オレもそう思うぜ。ただ説明が下手なだけで」
「蝉川が味方だなんて一瞬でも思った俺が愚かだった!!」
「去年の選挙の時なんか、紀子がいなかったら凍り付いてたしな。応援演説を頼んだ俺に感謝しろよ、周!」
「俺を下の名前で呼ぶな!!」
名前だけじゃない。生徒会執行部において、会長のフルネームは禁句の一つだ。
禁句とは言っても、末永先輩みたいに怖いわけではない。もし自分がその名前だったらと思うと居たたまれないので、なるべく口にしないようにしているだけだ。ただし、蝉川先輩を除いてだが。
(いくら会長が中二病でズレてる人とはいえ、先輩相手に度胸があるよなぁ……)
それだけじゃない。蝉川先輩はどういうわけか、上級生である会長や柴山先輩に対してタメ口で話すし、柴山先輩のことなんか『紀子』と下の名前で呼んでいる。
柴山先輩は何も言わないし、会長も名前を呼ばれることを嫌がるだけで、タメ口自体には特に異議を唱えていない。
最初は生徒間の上下関係にこだわらない人なのかと思ったが、末永先輩や他の上級生には普通に敬語で話しているので、そういうわけではないらしい。
「あの時は本当に大変だったわね……蝉川君ったら、ただでさえ入学当初から紀子ちゃんにちょっかい出してきたのに、応援演説の依頼を口実に四六時中まとわりつくようになったんだもの」
「もう慣れたけどね。今でもしょっちゅう、うちのクラスに来ては私にちょっかい出してくるし」
「え、ちょ……紀子!!」
「……へぇ、そう。やっぱりねぇ」
「いや、末永先輩!! オレは別に――」
末永先輩が、スッと流れるような動作であっという間に蝉川先輩の背後を取った。蝉川先輩の顔が、傍から見ても分かるくらいに引きつる。つい数秒前まで椅子に座っていたとは思えない。アニメや漫画で出てくる侍を思わせるような動きだった。
(本当に部活で弓道をしているだけなのか……?)
蝉川先輩が驚いて立ち上がることすら許さないと言わんばかりに、末永先輩が彼の肩にしずかに手を置いた。ただ手を置いているだけなのに、何だろう。この威圧感は。
そしてどういうわけか、末永先輩がそっと、蝉川先輩に耳打ちをし始めた。
蝉川先輩の顔が、みるみる内に赤くなっていく。何を話しているのかは分からないが、大体の内容は察せた。
(ていうか、上級生の教室にわざわざ行くなんて……)
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