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おうちごはん
黄色の長財布を開いた。
「……ない」
一度閉めて、もう一度開く。
千円札が一枚と、小銭が少し。現実逃避をしたところで、中身が増えるわけがない。
「お金が、ない……」
私は、大きなため息をついた。あと三日で給料日とはいえ、なんとも心もとない。
だけどこんなときこそ、前向きにいこうと決めている。ダメなほうに考え出したら、際限なく落ちる。
そう。具体的には、おいしいものを食べるに限る。ただし、格安で。
「よし!」
今夜は、あれだ。
私は財布を鞄にしまうと、キッチンに向かった。冷蔵庫や戸棚を開けて、材料を取り出していく。
「ニンニクー」
よく使うので、丸ごと一個で買っている。
「輪切りトウガラシ」
私のような、辛いもの好きには重宝する。
「オリーブオイルに」
なにかと使うので、送ってくれる実家には感謝だ。
「パスタ、っと」
一キロで二百円弱。安い。
材料は、これだけ。
「始めますか」
まず、パスタ。たっぷりの湯でゆでる。
ニンニクとトウガラシ、オリーブオイルはフライパンでじっくり熱する。ポイントは、ニンニクの香りを十分オイルに移すこと。そして、焦がさない。パスタのゆで汁を少し加えてなじませれば、オイルソースのできあがり。
パスタがゆであがったら、ソースに絡めて完成だ。
格安で、手順も簡単。イタリアの家庭料理だという、別名・絶望のパスタ。
「ペペロンチーノ、できあがりー」
ちょっといいお皿に盛り付ければ、気分が上がる。多少、金欠でも。
私は今月も、鼻歌交じりに皿を食卓へと運ぶのだ。
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