リインカーネーション

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

リインカーネーション

静かな空間で聞こえてくる耳鳴りの音。 窓の外から聞こえてくる車が走る音。 小さい溜息を出すと彼女は心を落ち着かせた。 「あぁ、そっか…」 ポツリと、誰かに言った訳でもない不意に出た言葉に、彼女は4畳程の部屋の窓際に腰を下ろした。 外の景色はいつもと変わらない。 交通量が少ない住宅街の道路、茜色に染まり始める空。 今日も一日が終わる。 「綺麗…」 空に浮かぶ太陽は沈みかけて、青と赤のコントラストが彼女を魅了する。 いつぶりだろう…こんなに空を意識したのは… そう思い彼女は窓を閉めて、鍵を掛ける。 これ以上、何も思わないからだ。 外の景色、外から聞こえてくる音。 それだけが彼女が今見たかった光景。 それ以上には何もない。 窓際から移動した彼女は、部屋の納戸のドアノブに左手をかける。 「今日の外の景色、凄い綺麗だったよ。 夕方の空ってあんなに綺麗なんだね、私久しぶりに意識したな」 まるで友達に話しているかの如く、自然に納戸に話しかける。 「今日も鈴ちゃん、可愛かったなー。 前にさ、鈴ちゃんって薫ちゃんに告白したんだよね?!」 続けざまに話す彼女の姿は、無邪気に楽しそうに。 「女の子同士なのに!すごいよね!本当羨ま…い、いや!何でもない!忘れて!」 右手の甲で顔を照れくさそうに隠す。 「で、今日二人で手をつないで帰ってたじゃん?って事は成功したんだよね?!二人ともすっごい嬉しそうだったし!」 数秒時間をおいて彼女は俯き、つぶやいた。 「本当、凄いな…」 何かを思いながらつぶやく彼女はどこか遠い目をしていた。 「私はさ、不器用だし…」 ドアノブにかける左手の力が少し強くなる。 「可愛くないし…」 ドアノブをゆっくり手前に引き始めると同時に匂い始める、木の香りと冷たい空気。 髪が風圧で少しなびく。 「…」 納戸から見えるツヤがある長い髪、ハッキリと怯えてるのがわかる涙を流している表情。 口には本人の物だろう、足から脱がされて靴下が詰め込まれてた上でタオルで結ばれている。 両手は体の後ろで、両脚も雑だけど頑丈に屈脚状態で縄跳びで縛られていた。 「ねー?薫ちゃん」 「…!…!」 何か言いたげな表情、涙がこぼれながらも必死に動きながら納戸から出ようとしている。 「あははっ!薫ちゃん、イモムシみたい!かーわーいい!」 彼女は薫の肩に手を当て、納戸の奥に追いやる。 「っ…!」 「だーめ!出ようとするなんて、薫ちゃん悪い子!めっ!」 元の位置に戻された薫の姿を見て、彼女はニッコリ笑った。 「えへへ、薫ちゃんはやっぱり可愛いね!」 泣きながら彼女は、伝わらないと分かっていても一生懸命声を発している。 「私ね、薫ちゃんの事すっごい好きなの。でもね、鈴ちゃんも好きだし、もうどうしたらいいか分かんないんだ…」 「なのに鈴ちゃんと薫ちゃん付き合っちゃったじゃん!それってズルくない? 私、置いてけぼりだよ…」 薫の反応がないまま、彼女はしゃべり続ける 「私も、ああいう事してみたかったなー…。 あのさ、好きな人と手をつなぐのってどういう気持ち?やっぱりうれしい?!」 「あぁー、いいなぁ…」 そう言いながら彼女は薫と目が合う。 目が合った薫は怯えながらわざと目を背けた。 「ね、ね、私もさ…」 納戸の奥に手を伸ばし、薫を部屋に少しだけ引きずり出した。 「手、繋いでみても…いい、かな?」 首を縦に振る薫を見て、嬉しそうに後ろに回された手に握手するように握った。 「あぁ薫ちゃん…あったかい…」 手を握る彼女は目を瞑り、幸せそうな暖かい表情を見せた。 「幸せだよ…ね?薫ちゃん?」 喋れないのを知っているのに、彼女はわざと薫に話しかける。 「…どうして、手震えてるの?」 「怖いの?嫌なの?」 握ったまま薫に話しかける、しかし薫もどう反応したらいいのか分からず、反応が無い。 「…そっか…やっぱりそうなんだね」 手を離した彼女は薫を仰向けに直した 「ねぇ、薫ちゃん…」 数秒、部屋に沈黙が続く。 「やっぱり薫ちゃんは、鈴ちゃんと一緒に居たいの?」 その質問に薫は体を震わせながら縦に頷いた。 「…わかったよ」 その言葉に薫は目を大きく見開いた。 もしかしたら助かるのかもしれない、そう思った薫の鼻息は一層荒くなる。 「…」 何も言わずに薫の制服の上着をめくり始める。 引き締まった細いくびれ、白い肌。 思わず生唾を飲むほど、傷一つない綺麗なお腹。 「…!」 彼女がお腹をさすると、体をビクッと震わせる。 強く目を瞑った薫は何も出来ないまま、されるがままだった。 「…やっぱり薫ちゃんは可愛いな」 お腹をさすりながら話しかける彼女は、少し悲しそうな表情をしていた。 「私ね、やっぱり薫ちゃんの事好き…」 「…一目惚れなんだ」 彼女は右手にずっと握りしめていた包丁を、お腹にめがけて振り下ろした。 何かが破裂するような音と共に、鈍くて、重い音がする。 体をのけ反らす程の衝撃、痛みが薫には伝わっているのだろう。 叫び声とも聞き取れる声も口元から捻り出すように数秒聞こえる。 一度包丁を抜くと、包丁の刺さった跡がくっきりお腹に付いていた。 「綺麗…」 そう呟いた彼女は再びお腹に包丁を振り下ろす。 血しぶきが彼女にかかっても、お構いなしで何度も何度も力強く刺し続けた。 何度も。 何度も。 あれから十数分は刺し続けただろう、もう彼女の辺りは真っ赤な液体で染まっていた。 ピチャピチャと水音が動く度に響く。 彼女はもはや原色を留めていない包丁を地面に置いて、薫だった物の口元を解き始めた。 「綺麗だよ、薫ちゃん…」 薫の頬に手を添えた彼女は優しくキスをした。 「大好き」 優しく微笑んで、彼女は立ち上がり、窓際に腰を下ろした・ ふぅ、と一息ついた彼女は窓から外を眺める。 いつもと変わらない景色、茜色に染まり切った空の色。 遠くで聞こえてくる車の音。 今日も一日が終わる。 薫だった物を引っ張り、納戸に押し込んだ彼女は満足そうに納戸を閉めた。 部屋の惨状を見て、彼女は後でいいやと考え、着ていた服を脱ぎ散らかし、ジャージに着替え始めた。 「あー、お腹すいたなー。 今日のご飯何だろう…」 そういって彼女は部屋の電気を消して、リビングに向かった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!