54人が本棚に入れています
本棚に追加
────────
古びた屋根を幾つも駆け抜け、七つの金木犀の木を飛び越えて、彼とエナは真夜中の街を進む。時々彼は此方を振り返り、付いて来ているか確認しつつ微笑むのがエナの頬をほんのりと紅くさせた。途中で珍しい青色の屋根で一行は立ち止まり、エナは呼吸を整えた。彼は背中の袋を背負ったまま、屋根裏部屋に繋がっているであろう天窓を開け、スルリと中に入ってしまった。
──きえちゃった‥…?
エナはどうしたらいいか分からずに天窓の中を覗きながら側でしゃがんでいると、《ご飯》を入れていた袋を置いたのか、彼に纏っていた毛布を軽く引っ張られた。
「ほらほら、そこにいては風邪をひきますよ。」
「ん……ひゃっ!?」
彼はひょいと軽く片腕でエナの身体を持ち上げて、片眉を器用に上げた。脇に差し込まれた暖かい手が冷えた身体には何ともいえないこそばゆさがあった。
「おやおや、くすぐったいですか。」
彼は後ろ手で天窓を閉め、しばらくの間何かを確かめるようにエナを腕で抱え、床にそっと下ろしてくれた。
「ようこそ、我が家へ。此処に人狼が来たのは君が初めてですよ。」
最初のコメントを投稿しよう!