夏の午後

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「テディ、テディ。こっちにはトケイソウのしげみがあるのよ、きて?」 夏のドレスの裾を翻しながら、きまぐれに風に舞う白い羽根のように、リルがダチェットの庭を歩いて行く。 テディは目を細めながら、陽差しを受けて虹色の光を放つ妻の髪の美しさに見入っていた。 妻も、庭も、八月の午後の陽差しも。 何もかもがせつないほどの眩しさだった。 テディは柄にもなく、こみ上げるひどくセンチメンタルな気持ちをもてあます。 リルへと、何度も指を伸ばしかけては、それを止め、小鳥のようにさえずる妻の言葉に、ただ微笑んで頷く。 修道女(キリストの妻)になろうと決意をしていた、この清純で可憐な女性を、フィアンセたるキリストから奪い取って妻にしたことに、背徳的な悦びを感じずにはいられなかった反面……。 テディは、この輝く庭の妖精を、灰色のロンドンへと連れ去ってしまったことに、罪悪感めいたものも感じないではなかった。 背中に白翼を持つ天使のような、いまだ清らかな乙女にしかみえないリルを、自分は毎夜のように褥にくみしき。 その白磁の膚の、そこかしこにくちづけの雨を降らせているのだと……。 そう思った途端、テディの獣めいた男の欲望に、静かに火がともされる。 そこここに咲き散らかる花々の名を紡ぐリルの珊瑚色に濡れたくちびるが、テディの獣欲を煽り立てた。 と、ふきわたる一陣の風がはらむ冷ややかさと湿り気に、テディは気づく。 ……ひと雨くる。 テディは、妻の折れそうな手首を掴んで言った。 「リル、このあたりにあずまやか小屋のようなものは有るかい?」
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