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これまで。
リルは、夜の寝台以外で、テディに身体を許すことは、決してなかった。
朝の微睡みの中、身体の猛りに突き動かされるようにして、隣に横たわる妻を求めるテディの腕から、リルは逃れ続けて来たのだ。
……だめです、テディ。あかるいときにはしないのよ。
こう言って子鹿のように寝台から飛び下り、急いで衣服を身につけるリルに、テディは、いくども言った。
「なぜ、駄目なんだい? 君は俺の奥さんなのだよ、可愛いリル。綺麗な君のすべてを、明るいところでも見たいんだ」
なだめすかすように、あるときは諭すようにしてこう繰り返す夫の言葉にも、リルはかぶりを振り続けてきた。
「いいえ、いいえ。ぜったいにダメです。テディ。夜にしか、してはだめ」
リルがここまで頑なにテディを拒むのには、もちろん理由があった。
嫁ぐ前、兄嫁のダチェット伯爵夫人アン・マリアから受けた忠告を、リルは懸命に守っていたのだった。
「いい? リル。夜の寝室でしか、決して『許して』はいけませんよ。そこだけは、手綱をゆるめてはなりません」
そもそも、夫婦の夜の行為についても、「なんとなく」といった知識しかなかったリルには、この義姉の忠告を、完全に理解できたとは言えなかった。
だが、それでもリルは、義姉の表情、そして声の調子から、それがとても大事なことだと察することは、十分できたので、大きなサファイアの目を見開くと、こう質問を返した。
「アンねえさま、それはなぜですか?」
アンは、眉根を寄せ、ちいさく溜息をつき、声を潜めるようにして応じた。
「リル。あなたにはまだ、まったく分からないことでしょうが……殿方というのは、なかなかに困ったものなのですよ? ひとつ許せば、もう際限がないのですからね。ですから、妻の側が、きちんと線引きをしておかねばなりません。殿方の言いなりに、与えてはいけないのですよ」
だから、今。
リルは、テディの激しい愛撫の指から逃れようと、必死に身をよじっているのだ。
しかも、こんな午後の陽差しが降り注ぐ、それも庭の物置小屋のような場所で。
乳房や足をむき出しにした、はしたない姿を晒すなど……。
あまりの恥ずかしさに、そして罪深さに、リルは恐怖すら覚えるほどだった。
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