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そのまま、テディは妻の身体の最も鋭敏な各所を、ひたすらに責め立てる。
焦らして嬲るゆとりは、テディ自身にも、もうあまりなかった。
腕の中の天使を、今すぐにでも、はしたなく降伏させたい――と。
性急に指を蠢かし、白い乳房の中心で固く立ち上がった薄紅色の尖りを、くちびるで弄ぶ。
胸元をテディの頬髭にくすぐられ、リルはその感触に、ただただ身体を震わせていた。
破廉恥にも、白昼、庭の小屋で身体を弄ばれて、自分は「快楽」に溺れているのだ。
淫らな願いを口にするよう、夫に強要されて、耐えきれず、それに従った。
羞恥のあまり、リルは激しい眩暈すら覚えるほどだった。
イエスさまの妻として、一生、修道院で過ごすのだと。
そう心に誓っていた頃から、まだ一年も経っていないというのに。
なのに今。
ここで、わたしの身体を淫猥にまさぐるのは、わたしにそんな決意をさせた高貴な「シスター」だったひとなのだ……。
どうして?
一体、なぜ、こんなことになってしまったのかしら?
どうしてわたしたち、こんなところで、こんなに恥ずかしいことをしているの……?
わたしは、ただテディに。
ダチェットの庭の素敵な秘密を、ひとつ残らず教えてあげたかっただけなのに。
不意に、リルの背筋に電流が駆け抜けた。
「来るべきもの」が、いま、やってくる――
その予兆を感じ取り、リルはせつなげに、ひと声、夫の名を呼んだ。
喉の奥に悲鳴をくぐもらせて大きく戦慄き、リルはやがて、力なくうなだれる。
すかさず、テディがリルの足首を掴み、高く持ち上げた。
そして、クライマックスの余韻に震えるリルに、情け容赦無く自らを突き立てる。
突然の挿入に、リルは身体をこわばらせた。
「い、やぁ……」
リルがそう発したのと、テディの猛りが、一気にリルの最奥に達したのは、ほぼ同時だった。
ああ、もし。
今、誰かが、ここへ来たら?
その思いつきに、リルはぞっとする。
なのに、テディの男の証に突き上げられ、身体を揺さぶられると。
またしても抗いがたい欲望に火がつけられるのだ。
――テディには、きっと分かってるの。
どんなに「やめて」と懇願しても、本当は。
本当はわたしが、肉体の快楽を得ているのだということが。
だから――
だから、テディは、決して「これ」を止めようとはしないのだ。
「テディ……こん、なの……ひどいです」
どうすることもできず、リルはテディをなじり続ける。
だが、その言葉も、激しい喘ぎに途切れて消えた。
そして、そのかわりのように、リルのくちびるからは、それまでの、どの夜に口にしたものよりもずっと、淫らな嬌声があふれ出す。
「なんて可愛いんだ……リル。我慢しないで、もっと声を出していいんだよ」
テディの声が、うわごとの熱に浮かされる。
リルの背は、小屋の粗末な壁に押し当てられ、両脚はテディの肩に載せられていた。
もちろん、テディは自分の両腕をしっかりとリルの後ろへと回し、そのか細い肩や背が、直接壁に触れることのないよう守っていた。
だがそれでも、貫き、揺すぶり上げるテディの動きはあまりに激しく、リルの肩は固い筋肉で覆われたテディの腕に擦りつけられ、痛みすら覚えるほどだった。
古びた卓が、今にもバラバラに壊れてしまいそうなほど、ひどい音を立てて軋む。
二度目の高まりが、リルの身体の奥底から突き上げてきた。
同時にテディも、雄々しい吠え声を上げながら脈打つ欲望を放出しようとした――その時だった。
リルの目に、信じがたいものが映ったのは。
小屋の外に庭師の息子が立っていた。
少年は、窓がわりに小屋の壁に穿たれた穴から、中を――テディとリルの痴態を、凝視していた。
食い入るように、まばたきもせず。
うっすらとくちびるを開いて、こちらを見つめている庭師の息子の淡い茶色の瞳。
リルと少年の目と目があう。
リルはテディの湿ったシャツを強く握って引っ張った。
けれども、テディは動きを止めない。
その直後、リルは、自分では、もうどうすることもできない快楽の訪れに、この上なく淫らな喘ぎ声を止められぬまま絶頂に達した。
そして――
内に放出されるテディの熱い欲望を受け止めながら、リルは。
「はにかみ屋」で、それでいて、ひどく頼りがいのあった少年が、呪縛から解かれたように踵を返し、雨の降りしきる木々の向こうへ走り去っていく姿を、ぼうぜんと眺めやる。
激しくも長い獣欲を、やっと吐き出し終えて、リルのくちびるを幾度かついばみながら、テディが言った。
「あの子は行ってしまったかい? リル」
その言葉の衝撃に、リルは耳を疑うような心持ちで、ひとつ瞬く。
「てでぃ……しって……?」
「時には、彼にも『刺激』というものが必要だろうからね」
ひとつ小さく笑って、テディはリルの耳もとで、そう囁いた。
リルは、天地がひっくり返ったかと思うような、激しい羞恥に打ちのめされる。
口をきくことはおろか、歯の根も合わぬほどだった。
「可愛いリル、どうだい……? すごく気持ちが良かっただろう」
髭の大熊は、黒目がちな焦げ茶の瞳をクルクルと動かしながら、憎らしいほど満面の笑みでこう言うと、リルの内から、「自ら」をそっと抜き取った。
リルの心は千々に乱れて、もうどうすることもできない。
あんまりだわ。
テディ、なんてひどいの。
ああ……なんて恥ずかしいことなのだろう。
あんなところを、見られていただなんて――
リルはドレスの襟元を引き上げると、力一杯、テディを突き飛ばす。
そして卓から飛び降りた。
その瞬間、足から力が抜けて、リルはへなへなと座り込む。
慌てて抱き起こそうと伸びてきた夫の手を邪険に振り払い、壁を支えにして、なんとかひとりで立ち上がった。
そっと肩を抱こうとするテディから、またしてもリルは飛び退る。
「きらい……だいきらいです…こんな、ひどいじわるのテディは、だいきらい。もう、しらない……」
妻が本気で憤っているのだということに、テディはやっと気がついた。
それは、リルが初めて見せた激しい感情だった。
どうやら自分は「とりかえしのつかないこと」をしでかしてしまったらしいと。
テディは、そう痛感した。
「リル……」
ひと声呼びかけたきり、テディは続けるべき言葉を見失う。
そんなテディを、涙に潤んだ瞳で精一杯睨みつけると、ダチェットの妖精は小屋を飛び出し、雨の降りしきる夏の午後の庭へと駆け出していった。
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