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黒沢峠の入り口は河原から運ばれた大きな石が敷き詰められ階段状に連なっている。
峠越えする行商人が、荷馬が登りやすいようにと郷の者を雇って作ったものだった。
石段とは言え加工もされぬ平坦な石を選んで敷き詰めただけ、それでも只の獣道に比べればはるかに人馬には歩きやすい。
ユキノの住む小国郷は朝日連峰に源流を持つ荒川という河川沿いにある為石材には事欠かなかった。黒沢峠は荒川を形成する峰のひとつであったため川沿いから石を運び込むことも比較的容易であった。
最近ひと際大きく感じるモレの背中を視線に入れつつ、ユキノはそこここに落ちている栃の実を拾いながらモレに遅れまいとせわしなく足を運んでいた。
栗よりも一回り大きい栃の実は、見た目だけは栗よりも良いものの様に思えるが、きどくて(苦い又はアクが強いの意)時間をかけてあく抜きしないと食せない為常食されはしないが、香辛料もまだ知れ渡らぬこの時代にはその独特の香りが蓬と共に香りづけの為に珍重されていた。
故に栃のあく抜き作業は雪国ゆえ冬季には雪に閉ざされて家の中で時間を持て余す女子供の冬仕事とされていた。
栃の木やブナの木が生い茂る峠道はさほど薄暗くもなく木漏れ日が草踏み固められた獣道を照らしている。
里山に多く生えているブナの木の厚皮を底板に、丈夫なアケビの蔓と稲わらで編んだユキノの沓はモレが編んでくれたものだった。
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