刻まれたもの

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「今日も時間ぴったりだな、阿朱里(アシュリ)」 隣接するビルとカフェの隙間にある裏口から入ると、バイト仲間のユウが時計も見ずに言う。 彼は水沢佑一。通称ユウ。 ベータの彼は俺と同じバイト歴2年。 シフトは主に朝9時から5時までの早番で、 午後5時から深夜までの遅番の俺とは あまり仕事が被らないけど、オメガに対する偏見とか妙な同情意識のない奴で、俺が気を許してる数少ない存在だった。 「といってもお前は毎回40分早く入るんだよね」 いつものようにカウンターの内側にある丸椅子を足で出したついでに、マシンから手早くコーヒーを注いで渡してくれた。 「サンキュ。 だって混んでる電車嫌だし」 「早出(手当)つかないのに? 俺だったらギリギリまで家で屁こいて寝てるけどなぁ」 そんなことを言いながらユウは、 「あれ?」 鼻をヒクつかせて眉間に溝を作った。 「お前そろそろじゃない?」 「うそ、匂う?」 俺は急いで腕の匂いを嗅ぐ。 「うん、少し。 やべ、、、勃っちった。早く薬飲めよ」 ユウが ”飲め“ と言ったのはオメガという第3の性を持った者が持つ『発情』を抑える抑制剤、つまりダウナーのこと。 ベータのユウにはない体質だけど、この匂いというのが誰彼かまわず性欲を煽るから厄介なことこの上ない。 ちょうど客が途切れたからか、ユウは わりとデカめの声で、 「あー、この発情(ヒート)ん時のお前の匂いってマジでヤバい。めっちゃクる。 、、、2年前のアレ思い出すよ」 このカフェのバイトを始めてすぐの頃のアクシデントを口にして少し離れ、苦笑いした。
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