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破れ
「おはよ。急いで」
朝から母に急かされる。昨日は受験勉強で夜更かしをしてしまった。急がないと遅刻してしまう。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
母が妹を迎え出した。美紀は今日も朝練だろうか。
「行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
美紀からだいぶ遅れて家を出た。
「たいきー。うっす。今日は遅いな」
「あぁ秀か。ちょっと寝坊してな」
いつも秀は遅刻ギリギリにくるので一緒に登校する事はないが、今日は俺も遅刻ギリギリだった。
「ふーん。んっ? お前制服の後ろ破れてるぞ」
「えっ、マジかよ。学校着いたら見とく」
「中林、中内急げ! 遅刻ギリギリだぞ。今日は中林も一緒とは珍しいな」
生徒指導の怒号が朝から響く。普通にイラっとくる。もうこの時間に登校することはないだろう。
ホームルームが始まってしまう。さっさと準備しないと。
「えっ? また……」
鞄の中から、今度は黄色い一輪の花が出てきた。
2日連続で悪戯かよ。犯人は分からんけど、あえてスルーしてやろう。何となくツッコンだら負けな気がする。まぁ、ポケットには突っ込むけど。
1時間目が終わり休み時間に入った。
「中林、お前が遅刻ギリギリって珍しいな。ん?制服何で破れてんの?」
「あっ、そういえばそうだった」
完全に忘れていた。岸川に指摘され、そそくさとブレザーを脱いで、確認した。
想像以上に破れていた。背中の部分に細い切れ目が2本。
「マジかよ……」
「どしたの、これ」
「さぁ、全然覚えがねえな」
「でもこれどう見ても……」
このタイミングでチャイムが鳴った。
「あっ、やべ授業始まる。気を付けろよ中林」
「あぁ……」
何にだ?
放課後、帰り支度を始める。
「かえろーぜ大紀」
「あー悪りぃ、今日はバイトだわ」
「お前まだバイトやってたのかよ。受験どーすんの」
「分かってるよ。今日、今月いっぱいで辞めるって伝えてくる」
「そっか。じゃあな」
「ほーい」
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