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「やばい!傘忘れちゃった-!」
これは全力疾走するしかないか。と、思い,駅から家に続く道を見る。
…少し大きい公園がある。
(近道できるかな。) カバンを頭の上へ持ってきて雨をしのぐ。
ブランコを見つけた。と、
赤い傘を持った女の子が1人。見た感じ、7歳とか、それくらい?
白いワンピースを着て、こちらを見ている。
「あなた一人なの?お父さんや、お母さんは?」
そう聞くと、私を見て、「にこっ」と笑った。 私が唖然としてると、
「にこっ」の顔のまま、私に傘を渡してきた。
ちょっとビビリながらも傘に目をやる。 どことなく古い感じ、
見覚えがある。 傘の持ち手を見る。そこには、『ながさわ みよ』の文字。
思い出した。
私が9歳の時。
学校からの帰り道、びしょ濡れになっている女の子に会った。
「だいじょうぶ?あ、かさないの?わたしのかしてあげるよ。」
その子の手に持たせると、 私は言った。
「おうちどこ?おくろうか?」
でもその子は、首を横にぶんぶんと振った。そして、
…「にこっ」と笑って。傘と一緒に雨の中を走って行った。
それ以降、あの子と会うことは無かった。
でも、今、いるのだ。…私の目の前に。何故か、あまり怖く無かった。
「ありがとう。傘、かえしに来てくれたんだね。」
私がそう言うと、女の子はこくりと首を縦に振った。すると…
「にこっ」と笑った。
気が付くと、駅にいた。どこか古めかしい、自分の名前の付いた、
傘を持って。
あの傘は、今でも私の宝物です。なぜかって?
いつかまた、あの子に会いたいのでね。
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