プラチナ

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ドーン…! 花火の音はしても、鬱蒼とした木々のせいで、その姿は見えない。 昴生を殴った大地は、階段から突き落とす様に彼を追い出した後、僕の所へ戻って隣に座る。 起き上がって膝を折り畳むと 脚の間からトロトロと白濁液が零れ、浴衣を汚していく。 「花火、見えねぇな」 「……」 「玲央が調べてたここ、穴場だったのは五年も前みてぇだしな」 そう言って大地がスマホを取り出し、画面を見せる。 「……玲央の事だから ふて腐れて一人で見てんじゃねぇかと思ってよ。 検索履歴見て、片っ端から回ってたら、……遅くなっちまった……」 そう言うと、大地が此方に顔を向け、何か言いたげな、顔を強張らせた様な表情を見せる。 が、直ぐに軽い溜め息と共に顔を緩め、僕に横顔を見せた。 「……」 「…玲央、あの写真の事だけど…」 その言葉に、びくんっと肩が小さく跳ねる。 半裸の女性が脳裏に浮かび、僕に勝ち誇った様な表情を見せる。 「知り合いのつてで、やっと貰った写真の仕事が……AV関係でよ……」 襟足を掻きながら、ばつが悪そうな顔をちらりと此方に向けた。 「それ知ったら、玲央が怒ると思って……悪ぃ、ずっと黙ってて」 「………」 ……浮気じゃ、なかった…… そう安堵はするものの、仕事とはいえやはり気持ちのいいものではない。 「……ばか、許さない」 両膝を立て抱えると、くるりと大地に背中を向ける。 「僕よりAVの女の子の方が、魅力的なんだ……大地は……」 背中を丸め、拗ねたように言葉を吐く。 と、その時……ふわりと煙草の匂いがし、次いで温もりが僕を背後から包んだ。 「……そうかもな。 写真家として名声を上げるチャンスを、玲央の為にみすみす逃してきたんだからな……」 「……え……」 大地の言葉に、胸がずくん、と痛む。 ”今回は外せない、大事なカメラの仕事なんだよ“ ……僕のせいで……大地…… そんな大事な…… ズキズキとした胸の痛みが僕を責める。 僕のせいで、大地の人生を狂わせてしまったのかと思うと、胸が押し潰される様に、苦しい… 「……悪ぃ、嫌な言い方した…… 話蹴ってきたんだよ……その、 ……玲央の方が、大事だからな」 「……」 それなのに、僕は…… 欲しい言葉をくれた大地に、今は、申し訳なさばかりが募っていく。 僕は……何も…… ゆっくり振り返る。 そして大地の優しい瞳と視線がぶつかり 小さく唇を動かした。 「だい……」 「……玲央、ごめん。 淋しい思いや怖い思い、させちまって……」 僕を引き寄せ、厚い胸板にすっぽりと収めると ぎゅっと強く抱き締めた。
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