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初めて部室の扉に立った時、呼吸が細かく震えるほど緊張していた。ドアノブに手をかけては離す、を何度か繰り返していた記憶もある。
学内で困っていたところを助けてもらってから始まった片想い。その人にようやく一歩近づけるのだと、呆れるほど興奮していたからだと思う。
『あ、あの! こんにちは!』
やっと足を踏み入れて、いつも以上に張った声を出した。
最初に見た姿は、広い背中。
次いで、怪訝から徐々に期待へと変わっていった柔和な顔。
『もしかして、入部希望者?』
ああ、やっぱり好きだ。
今まで抑制されていた想いが胸元からじわじわと広がっていったのを覚えている。慌てて打った相槌の声が裏返る寸前だった。
『ポスター見て、気になって。私二年生なんですけど、大丈夫ですか?』
『もちろんもちろん! 何年生でも大歓迎だよ! 来てくれて本当にありがとう!』
自分は毎日のように出会った日を思い出して、想っていた。
彼にとっては、ちょっとしたイレギュラーが起きた日に過ぎなかった。
おこがましいことに、初対面な態度に少なからずショックを受けていたのだ。
それでも向けられた笑顔は眩しくて、温かくて、くだらない暗い感情を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
不安はあったけれど、確かな希望に満ちていた。
あれからあっという間に日々は過ぎ去って、もうすぐ季節がひと周りする。
一年は、長いようで短かった。
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