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足元に、一輪の花が落ちている。
口紅にあるような、濃く鮮やかな赤いガーベラだった。
拾って、まっすぐに引かれた道を歩いていく。
また、一輪の花が落ちている。
ピンク寄りの紫色のチューリップだった。
拾って、再び一本道を歩いていく。
一輪の花が落ちている。
薄桃色のコチョウランだった。
拾って、足を進めていく。
今度落ちていた花は、薔薇に似た、白のベゴニアだった。
終わりの見えなかった道の先に、ふいに円形に開かれた空間が現れた。明確なゴールに、自然と足が速まる。
思わず息をのんだ。知り合いが、立っている。意識して知りすぎている、年上の男のひと。
「どうしたの? その花束、誰かにプレゼント?」
指を差された左手を見て、驚く。
いつの間にか、拾い集めた花たちに簡単なラッピングが施されていた。
プレゼントするなら、花が好きな彼しかいない。
いつもお世話になっているお礼に近い気持ちで、その花束を感謝の言葉を添えて差し出した。
予想に反して、とても信じられないとでも言いたげな反応をしている。花をもらったらむしろ喜ぶ人なのに、戸惑ってしまう。
「本当に、僕宛てなの?」
突き放すような声色に、思わず一歩後ずさる。
どういう意味ですか。
問い返したつもりが、表に出ていない。
「だって、僕は……」
急に視界が真っ白になって、全身に変な浮遊感が走り出す。
ようやく視界を取り戻した時、映り込んだのは彼ではなく、見慣れた部屋の天井だった。
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