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「何と言う事でしょう…最早人が住むには適さないボロ屋がお洒落でモダンな森の憩いの場へと生まれ替わりました」
「人の家をボロ屋呼ばわりするな」
「それは住みません」
番組の制作費は少ないので俺は他所からのアイディアを手当たり次第にパクる。
俺は勿論、この山小屋の前身を知りもしなければ後の事なんかも知ったこっちゃない。
ビフォーもアフターも最早どうでも良い。
只今この時に再生数を稼げるだけの面白映像が撮れればそれでよいのだ。
「山の上に佇むロッジと呼ぶにはそれはあまりもみすぼらしくこぢんまりとした家がそこには在りました。
崖の上ですが、底にありました」
「ナレーションはお前が撮りながら喋るスタイルなのかよ!」
男は突っ込む。
辛うじて取材には応じたものの、見た目も冴えないし覇気がない話し方でこれでは視聴者も飽きてしまうのではないか?
軽快に場の説明を進めつつ、小粋なジョークなどを交えて進行。山の動物達ともふれ合いながら何とか番組の締めとなる相応しい落ちをつけて終わりたい。
後で持ち帰って編集するとは言え、
段取り型の俺としては行き当たりばったりの突撃取材と言うのはストレスだ。
ミラクルに期待するのは良くない。
「あれっ、こんな所に果物が成っていますね?」
俺は崖の下に目をやる。
「ああっ、それね。
成ってるんじゃなく俺が植えて育ててんのよ」
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