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プロローグ
ガタン、ゴトン・・・
ガタン、ゴトン・・・
列車の中でヘンリクは今しがた渡された自身の肖像画を見ていた。
『これは半身だ・・・。』
無くした半身の代わりに、イヴィが自分の代わりに渡してくれたのだ、そう思った。
『きっと暫くは戻れないだろう・・・。』
旅立ちは切ないものとなったが、後悔はなかった。
ここで過ごした日々は掛け替えのない素晴らしいものであった。
家族や友人、そしてイヴィがいた。
何か一つでも欠けていたら今の自分はなかったと思う。
ハーフで産まれ、二つの祖国がある事。
イギリスのバーミンガムで産まれ、オランダのナイメーヘンで育った事。
ウィーンでの出来事。
戦争は避けられない事態になっている。
そして、物心ついた頃から側にはイヴィがいた事。
全ては偶然ではなく、必然だったのかも知れない。
”nothing is written."(この世に定めなどない。)
以前は好きな言葉だったが、今は”全ての出来事には意味があるのかも知れない”、と思い始めている。
この18年間がエヴァからの”ギフト”であったなら、これ以上の”ギフト”はない。
エヴァとイヴィ、2人は”woman of destiny”(運命の女)であり、感謝しかない。
ガタン、ゴトン・・・
ガタン、ゴトン・・・
青春が遠ざかって行く音を聞きながら、もう後戻りは出来ないという覚悟と決意を新たにしていた。
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