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プロローグ~遺言~
1928年6月
オランダ ナイメーヘン
エヴァ・ローゼンベルクは死の間際にいた。
親族たちが集まる中で、友人夫婦レーナとエドワルドのヘンドリクス夫妻が呼ばれる。
最後のお願いとして、二人に二つの遺言を残した。
一つは二人に仲直りして欲しいという事。
もう一つはエヴァの娘イブリンとヘンドリクス家の長男ヘンリクを許婚にして欲しいという事だった。
戸惑ったものの、両家にとってデメリットはなく、親戚になるのは喜ばしい事だった。
エヴァの娘イヴィ(イブリン)は6歳、ヘンリクは7歳で、二人は幼なじみで兄妹のように育ってきた。
二人に遺言の話をすると、「うん、わかった。」とあっさりした反応で、解かっているのか大人たちは不安だったが、子供なりに理解したようだった。
親が「他人には言わないように。」と言うと、「どうして?」と、ヘンリク。
「実際に結婚するかどうかは大人になってから二人で決めれば良い事だから。遺言だけど、強制はしたくないから。」と、説明した。
エヴァはローゼンベルク劇場のカバレット・リート(シャンソン歌手)だった。
カバレット劇場は歌やバラエティーショーを上演する演劇場である。
ステージでは赤いドレスに黒手袋というのが彼女のいつものスタイルだった。
ボブカットの黒髪に真っ赤な口紅が映えて、セクシーで魅惑的であった。
メリハリのあるボディにディートリッヒ並みの美脚でもあり、黒いハイヒールで踊る姿はモダンガールそのもので皆が憧れた。
オペラからシャンソン、ジャズやブルースまで何でも歌えた。
伸びやかな歌声はマイクなしでも十分通り、時には切なく、時には明るくパワフルに観客を魅了した。
トークもダンスも上手で、お客を楽しませる事に長けていた。
魅惑の歌姫と言われ、地元のスターでファンも多かった。
エヴァの夫は劇場の一人息子でピアニスト、アルフォンス・ローゼンベルクだ。
自宅でピアノ教室もやっていた。
エドワルドとは同級生で、仕事上でも付き合いがあった。
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