プロローグ~遺言~

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レーナがイギリスから嫁いできて、最初に出来た友人がエヴァだった。 大学で英語教員の資格を取得していたので、義父の経営する学校で英語教師として働き始めた。 そこでコーラス部の生徒たちとエヴァがイベントで共演する事になり、週に一度生徒たちとのレッスンに来ていた。 エヴァは英語も堪能で明るく親しみやすく、二人はすぐに打ち解けた。 オランダ語も分からず、知り合いもなく、文化も習慣も違う土地で孤独だったレーナにエヴァは親切で優しく、いつも親身になって相談に乗ってくれた。 レーナには、エヴァがヘンリクとイヴィを許嫁にして欲しいという遺言を残した理由に心当たりがあった。 以前、エヴァが十代の頃に出会ったイギリス人の恋人がいたという話をしたのだ。 16の時、デュッセルドルフに音楽留学していた際、ヴァイオリン職人の修行に来ていた3歳上のイギリス人男性と将来を誓いあったというのだ。 予定通り一年間の留学生活を終え、オランダに帰国した。 彼とはその後も連絡を取り合うが、1914年戦争が勃発する。 翌年彼は戦争へ行き、戦死したそうだ。 戦死を知ったのは彼の妹からの手紙だった。 その後、3歳年下の音楽家の夫と結婚。 夫には戦死した恋人がいたと話した。 結婚する時に彼の手紙を全て妹に送った。 すると、後日『結婚しても兄を忘れないでいてあげて。』と、写真を1枚送ってきた。 エヴァはその写真を亡くなるまで大切にしていた。 レーナは一度その写真を見せてもらったことがあった。 と、言うのもレーナの息子ヘンリクが5歳になった頃から、『ヘンリクを見ると戦死した元カレを思い出す。』とエヴァが言い出したのだ。 エヴァはヘンリクが元カレに似ていると言うのだ。 写真を見ても、似ていると言われればそう見えなくもないが、『似ているような気がする』という位だった。 それでもエヴァは元カレに似ているというヘンリクと、娘のイヴィに結婚してもらいたいと思ったのだ。 エヴァは娘の事を自分の分身のように思っているようだった。 幼い2人がてんとう虫を手にのせて遊んでいるのを見ながら、エヴァはレーナに『将来娘と結婚して欲しい。』と言った。 レーナは『それは大人になってから、本人達が決める事だから。』と言うと、エヴァはヘンリクに『大きくなったらイヴィをお嫁さんにしてくれる?』と聞いた。 『いいよ』と答えるヘンリク。 この時、ヘンリク7歳、イヴィは6歳だった。
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