フリッツとヴィクトール

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フリッツとヴィクトール

「初めて聞いたわ。おじいちゃんとヴィクトールさんはどういう関係だったの?」 「父は元々オルガン奏者だった。教会で演奏したり、教えたりしていた。そこで聖歌隊メンバーだった母と出会った。父はその後、アコーディオン奏者として各地の劇場などで演奏していた。いつか、自分の劇場を持つのが夢だったそうだ。」 祖父フリッツの事はあまり知らない。 イヴィの知っているフリッツは、自分の事はあまり話さなかった。 アコーディオンを演奏している姿も記憶にない。 「撤退したばかりの銀行の建物を見つけ、この土地で念願の劇場をオープンしようと思ったんだ。その物件を仲介をしたのがヘンドリクス商会のヴィクトールさんだった。」 イヴィ「それじゃあ、最初はヘンドリクス商会のお客だったのね。」 アル「そうだよ。銀行からの融資も決まり、改装工事は順調に進んでいるように見えた。」 イヴィ「見えたって・・・?」 アル「ほぼ完成というところで、その建築業者に脱税で手入れが入った。」 「脱税?!」 驚くイヴィとアンネマリー。 「それで調べてみると、手抜き工事で酷い有様だという事が分かったんだ。旅芸人だと思って、足元を見られたんだよ。」 「酷い話・・・。」 呆れたように呟くアンネマリー。 「工事をやり直そうにも、もう資金がない。銀行へ掛け合ったが、『これ以上の融資は出来ない』と断られた。その建築業者は銀行の紹介だったのに・・・。途方に暮れた父は諦めて土地建物を手放そうと思ったんだ。既に銀行に借金があったし、手抜き工事で改装途中の建物では、購入した時の半分以下にしかならないのは分かっていたが、引き返すなら今しかないと・・・。」 首を振るイヴィ。 祖父母も苦労したのだと思った。
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