ガルボの葉書き

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4月15日(金) 朝から落ち着かないアーサーは、授業など集中できる筈もなかった。 学校が終わると真っ直ぐ聖ステーフェン教会へ向かった。 30分も早く着いてしまった。 教会は人影もまばらで静まり返っていた。 カツン、カツン、と足音が響く。 礼拝堂の一番後ろのベンチ席に座り、シルビアが来るのを待った。 カツン、カツン・・・ 16時を少し過ぎた頃に、女性の靴音が聞こえた。 見ると、黒いレースのスカーフを頭から被ったシルビアが現れた。 そのまま祭壇へ向かい、片膝をついて十字を切り、ロザリオを手にお祈りをしている。 1分程お祈りをし、終わるとアーサーの元へやって来た。 紺色のワンピースに黒いレースのスカーフをしたシルビアは、伏目がちに目立たないようにしているようだった。 白い肌と美貌が際立って見え、神々しいほど美しかった。 アーサーの隣に座るシルビア。 アーサー「Hora.」 シルビア「Hora.」 視線を上げるシルビア。 アーサーはため息が出そうになるのを堪えた。 「・・・とっても綺麗だ・・・。」 色々話したいと思っていたのに、いざシルビアを前にすると、月並みな言葉しか出てこない。 シルビア「ありがとう・・・。」 アーサー「・・・ここよく来るの?」 頷くシルビア。 「家族とお祈りに来るの。ようやく1周忌が過ぎた所なの。」 「1周忌?」 「父と、兄が亡くなって、1年経つの・・・。」 「内戦で・・・?」 「そう・・・。」 ラウラ先生の家族はスペイン内戦を逃れてオランダに渡って来たと、聞いていた。 アントニオが自転車で転倒して怪我をした時、病院へ駆けつけたラウラ先生とお母さんは号泣していた。 大げさに思えたが、そういう事だったのかと思った。 家族を亡くすという、辛い思いをしてきたのだ。 ラウラ先生はそんな事は感じさせず、学校では明るく振る舞っている。 「ここ、17時までだろ。外へ行こうよ。」 教会は17時に閉まる。 首を振るシルビア。 「男の人と2人きりになってはダメって言われてるの。」 「誰に?」 「母と姉に。」 「厳しいんだね。」 「ええ、その辺は母より姉の方がすごく厳しいの。でも、仕方ないわ。姉さんは家族を守るのに必死だったもの。」 「2人きりじゃなければ良いの?」 「どうかしら・・・。ここなら教会で安心だし。2人きりでもないでしょう。」 「歳を聞いても良い?」 「15よ。」 「俺は17。6月で18になる。・・・ここでならまた会ってくれる?」 「良いわ。」 はにかみながら微笑むシルビアに、アーサーはもう夢中だった。 7766cfb8-ba94-4f64-b0b3-ab7e40420572
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