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プロローグ~エヴァの葬儀~
エヴァの葬儀には親族の他、仕事関係者、友人達やファンなど大勢が参列した。
葬儀の最後ではエヴァが一枚だけ録音したレコードが繰り返し流され、早すぎる死を悼んだ。
地元の新聞にも大きく取り上げられた。
レーナはエヴァが入院したと聞いても、まさか重病だとは思っておらず、亡くなるとは思わなかった。
エヴァの体調の悪化に全く気づかなかった事に、罪悪感とショックを受けていた。
大腸癌で、異変を感じて病院に行った時にはすでに全身に転移していたという。
一度手術して退院したので、良くなったものだとすっかり思いこんでいた。
エヴァは盲腸の手術だと言っていた。
自宅療養中も痩せて顔色こそ悪いが、身の廻りの事は自分でしていた。
後になって思えば、廻りに心配をかけないように振る舞っていたに違いない。
入院して半年も経たずに、あっという間に亡くなってしまった。
エヴァの夫、アルフォンスの嘆きようは激しく、見ている方も辛かった。
泣き虫のイヴィがめそめそせず、「パパ、私がついてるわ」と、父を励ましていたのが参列者の涙を誘った。
レーナはエヴァの妹のクリスタが、小さく折りたたんだ元恋人の写真を花束に隠して棺に入れるのを見た。
クリスタと目が合った。
この事を知っているのはレーナとクリスタ二人だけだ。
クリスタは聴覚障害者だ。
乳児の時の高熱が原因で難聴になり、最近流通し始めた真空管補聴器を使用していた。
聾学校の同級生の誕生日会で、年の離れた友人の兄に見初められ、二年前に18歳で結婚した。
クリスタもまた、ローゼンベルク劇場の地下映画館に勤めていた。
姉同様、黒髪に青眼の細身で可愛らしい感じの女性だ。
レーナと夫のエドワルドの仲は良好とは言い難かった。
子どもの教育方針の違いから、気持ちがすれ違い、最近は最低限の会話しかなかった。
レーナ自身、家を出る覚悟は出来ていた。
エヴァが病気だと聞いたのはそんな時だった。
自分の事ばかりで廻りを返り見なかった。
エヴァの最後の仲裁のおかげで、夫と話し合い、やり直そうと決めた。
エヴァの早すぎる死が、レーナに自分は恵まれているという事と、家族の大切さを教えてくれた気がした。
しかし、夫婦仲が本当の意味で修復されるには、まだしばらくの間時間が必要だった。
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