プロローグ~ヘンリクとイヴィ~

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一方、イヴィは4歳になると、芸術的才能は絵でも発揮されるようになり、絵画教室に通うようになった。 6歳で母を亡くしたイヴィは父を気使い、父の前では泣かなかった。 しかし、父のいない所では突然号泣するなどして、周囲の大人を困惑させた。 イヴィが学校から帰ると父が生徒にピアノを教えていたし、通いのメイドもいた。 伯母のクリスタも近所で、イヴィの母替わりになった。 夜はベビーシッターがいたが、たまに都合がつかない時はヘンドリクス家でイヴィを預かった。 そういう時は夜も遅いので大抵泊まらせた。 ヘンドリクス夫妻も共働きだったが、レーナは週三、四日の勤務で、夜は大抵在宅だった。 レーナはイヴィが不憫で、自分に出来る事があれば、できる限りの事はしてあげたいと思っていた。 息子にもそう言い聞かせていたし、イヴィには特に優しくするようにと言っていた。 互いの家まで徒歩でも12,3分位で、小学校も徒歩で行けた。 ヘンリクは週に二回ピアノを習っていたので、ピアノの日は真っ直ぐイヴィの家に行く。 ピアノ教室が終わるとアルフォンスは子供たち二人をよく劇場まで連れていき、映画を見せたり劇場で遊ばせてくれた。 イベントシーズンになるとアルフォンスと劇場の音楽家たちは度々、各地の演奏に呼ばれた。 寂しくないように演奏旅行にはイヴィを同行させた。 演奏旅行は大体同じメンバーで、演奏家たちは家族同然だった。 国内だけでなく、ベルギー、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、イギリスなど国外公演にも同行した。 イヴィはこの演奏旅行が大好きで、いつも楽しみにしていた。 いずれは自分も父のようなピアニストにもなりたいと思っていた。 しかし、幼いながらも自分と演奏家たちとではなにかか違う、と感じていた。
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