六、曲霊(まがひ)

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すぐ傍で底筒男神が嗚咽を漏らすのを聞きながら、梅太郎は優しい口調で告げる。 「イワナガさん。底筒さんが泣いてんだよ。だから、早く起きて慰めてやってよ。イワナガさんじゃないとダメなんだ。底筒さんが、ずっとイワナガさんを抱き締めてるの分かる?これから二人でたくさん幸せになるんだから……頼むから起きてよ。起き――…」 その刹那、梅太郎が握っている姫神の指先がほんの僅かぴくりと動いた。その微かな動きに気付いた梅太郎が、涙に濡れた目を大きく見開く。 「イワナガさん…?」 呼び掛けに答えるようにして、再び小さく指先が動いた。それでも姫神が目を覚ます気配はない。ただ、指先だけが微かに揺れている。 「じ…じいちゃん!!イワナガさんの指が動いたッ!!」 途端に焦ったような声で少彦名神に告げると、梅太郎は急いで姫神の指先を底筒男神に押し付けるようにして握らせた。 「ほら!底筒さん、動いてる!イワナガさん、ちゃんと聞こえてるよ!!底筒さん、たくさん呼びかけて!!ほら早く!!」 『磐長姫…ッ!』 取縋るようにして叫んだ底筒男神の声に、姫神の指先がさらに小さく動いて応える。 そのささやか過ぎるほどの反応に、その場の全員の顔付きも一気に変わっていく。皆の瞳が爛々(らんらん)と輝いて再び気力を取り戻しはじめた。
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