竜と共に王城へ

5/7
前へ
/39ページ
次へ
「なぜ? 他に好きなやつでもいるのか?」 「いえ……」 そういうことじゃない。 「じゃあ!」 「ダメなんです!  アウリスは王子なんです。  王太子様なんです。  私は、ただの竜使いです。  お妃様にはなれません」 「そんなの!」 アウリスは、手綱を左手にまとめて持ち、右手で私の腰を後ろから抱きしめた。 そして、苦しそうにその心情を吐露する。 「俺は……  王子に生まれたくて生まれたんじゃない。  自由に外出もできない。  友人も選べない。  もちろん、職業だって。  その上、結婚相手まで  選ばせてもらえないのか?」 それは、そうかもしれないけど…… 「それでも、私は、竜使いですから……」 腰に回された腕に力がこもり、背中にアウリスの温もりが伝わる。 「レイナは城で暮らすのは嫌か?」 絞り出すようなアウリスの声に胸が切なくなる。 「私が良くても、良くは思わない方々が大勢  いらっしゃるでしょう?  アウリスがいつか国王になった時に、国王を  支えるべき方々から信頼を得られなければ、  この国はバラバラになってしまうのでは  ありませんか?」 アウリスは答えない。 私は続けた。 「私は、このエドヴァルドが好きです。  自然豊かで、竜たちが暮らせるのは、この  世界にはもうエドヴァルドしかないんです。  お願いです。  エドヴァルドを守ってください」  かつて、竜は世界中に無数にいたらしい。 しかし、(いくさ)のために乱獲され、人だけでなく、竜も戦死し、数が激減してしまった。  今、ひっそりと隠れるように、竜が、竜の谷のみで飼育されているのは、他国からの攻撃や侵略を避けるため。だから、どんなに不便でも、私たちは高い山に囲まれた谷の中で暮らしてる。  もし、このエドヴァルド王国が崩壊するようなことがあれば、近隣諸国は即座に攻め入り、まず竜の居場所を突き止めようとするだろう。それだけは避けなければいけない。  頭に鋭い風を感じた。 アウリスが竜笛を吹いたんだ……  キーラは、翼の角度を器用に変えて、降下を始めた。  キーラは城内の中庭に降り立ったが、アウリスは、私の腰に回した手を解こうとはしない。それどころか、左手も巻き付けて、後ろからしっかりと抱きしめられる。  そのまま小刻みに震えるアウリス。 もしかして、泣いてるの? けれど、そんなこと聞けるはずもなく…… 私は動けず、しばらくそのままの時間を過ごした。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加