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元の日常
翌日から、私はいつも通り働く。キーラの他にも、うちにはまだたくさんの竜がいる。だから、仕事はいくらでもある。
竜の谷は、大昔、海の底だったらしい。今は冬が長いこの国も、かつては暖かく、海には珊瑚礁が広がっていた。それが長い年月をかけて、海底から隆起し、その堆積した珊瑚が雨水により侵食された。そのため、この谷には、たくさんの洞窟がある。
そして、今、その洞窟の一つ一つが、竜の巣になってる。私は、父と2人で毎朝、掃除をし、餌をやり、訓練をし、運動をさせる。それは、とても重労働だ。
他にも二家族の竜使いがいるけれど、どちらも祖父、父、息子、叔父と大勢の男手でようやくなんとかなる仕事だ。うちは、祖父も2年前に亡くなり、母も祖母も亡くなって、今では父と私の2人きり。だから、毎日、朝から晩まで働き詰め。
それでも、私は竜使いを辞めたいとは思わない。竜たちはかわいいし、何より、もう野生にはいなくなったとされる竜をなんとしても守りたいって思うから。
私の夢は、いつか竜を野生に返すこと。自由に空を飛び廻り、自分で餌を食べ、自分たちで伴侶を見つけ、卵を産む。
だけど、今のままじゃ、野生に返して万が一国境を超えると、他国の兵器として使われかねない。竜に乗れば、一気に国境を越えて、敵国の城に直接攻撃することが可能になるから。
今、このエドヴァルドが平和なのは、他国に竜がいないことがとても大きい。エドヴァルドには竜がいることを近隣諸国は知っているから、下手に手を出せない。その上で、今の国王は上手に切り札としてちらつかせながらも、交渉のみで平和的に外交を進めていく。
優しいアウリスなら、きっと今の国王陛下の方針を引き継いで、平和な国を作ってくれるはず。私とこの竜たちが幸せに暮らすためにも、私は、アウリスの邪魔をしちゃダメなんだ。
私は、作業をしながらも、ついつい考えるのは、竜のことから離れてアウリスのことばかり。
私、どうしちゃったんだろう。
この先、私がアウリスと会うことなんて、二度とない。それなのに、アウリスのことばかり考えてしまうなんて。
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