元の日常

2/6
前へ
/39ページ
次へ
 帰ってから3日後のこと。私はいつものように竜の巣を掃除していた。記憶にないが、多分、またアウリスのことを考えてぼーっとしていたんだと思う。外に出してたはずの竜が戻ってきたことにも気付かず、竜の尾が当たり、左腕に激痛が走った。 「っっっ!」 声も上げられないくらいの痛みが全身を駆け抜ける。私は、辛うじて竜笛を取り出し、咥えた。 「ピッピッピッピッ」 聞こえない笛を小刻みに吹くと、竜は当然のように巣の外に出る。  私は、竜の尾が届かないことを確認して、巣の外に出た。 「お父さん、お父さん!」 痛みに耐えながら父を呼ぶと、別の洞窟から父が現れた。 「レイナ、どうした?」 のんきに返事をした父だったが、私の様子を見て、顔色を変えた。 「レイナ! どうした!?  腕か!?」 父が、状態を見ようと、腕に触れた瞬間に激痛が走る。 「んっっっ!!」 息を呑み、声にならない悲鳴を上げる。 「竜か? なんで、そんなヘマを……」 父は、口惜しそうに下唇を噛んだ。 「とりあえず、医者に見せよう。  山を下りるぞ」 「大丈夫……  ひとりで行ける」 今、父がここを離れたら、竜の世話が終わらない。 私は、だらんとぶら下がった左腕を庇いつつ、1人で山を下りようとするが、父はそれを許さなかった。 「その手じゃ、竜には乗れないだろ。  歩いて下りる気か?  竜で下りればすぐだ」 「でも……」 この手じゃ、縄梯子も上れない。  父は、私の言葉は聞く気がないようで、すぐにそばにいたイーロに鞍を掛ける。そして、私の痛む腕の内側にそっとロープを通すと、背中を通って反対の脇にも通した。そのままロープを肩に担いでしゃがむと、ロープの端を足の付け根に回して、簡単に私を背負い上げてしまった。そうしてそのまま父は、イーロの背に上る。私は、揺れてどこかに触れるたびに痛むその手を、必死に庇いつつ、漏れそうになる呻き声を歯を食いしばって、喉の奥に押し留める。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加