ある雨の日

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ある雨の日

「君は今、同じ空見上げていますか?」  目を覚ますと、ぼくは空の上だった。    瞳に熱くこみ上げる涙と弾けそうな想いは、ぼくの人生の中で消えることのない、ただ時を経て色褪せていく思い出だろう。  この数ヶ月の出来事は味気ないぼくの人生の中で、生きていると実感できるそんな時間だった。  二十二歳の夏、ひと夏の恋はこうして始まった。  雨が窓に振り付ける六月のある日、食堂でカツ丼を頬張るぼくに、 「おー航平、お前夏休みどうすんの?」親友の俊介が近寄ってきた。  ぼくと俊介は同じ早稲田大学に通う学生だ。付属高校からの親友で高校、大学とともにテニス部に所属していた。  お互い別々の会社に内定が決まり、俊介は証券会社、ぼくは商社の内定を得ていた。 「お疲れ。特に予定ないよ。美雪とは休み中ほとんど会わないし、向こうは実家に帰っちゃうからさ。俊介は?」 「おれさ、前に台湾に一人旅して、現地の女の子と友達になったからさ、夏休み台湾に行こうと思って。どう一緒に行かない?」
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