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個人授業
「お帰り、西野君。ミユちゃん、お待ちかねですよ。」
社協の会議から公民館にもどると、館長が笑いながら図書室を指さした。
「ホンマいつまで、こんなこと続けるつもりなんですかね?本人も先生達も。」
俺は困惑を隠せなかった。
「そんなん、西野君が止めて言うまで続けるつもりですよ。」
「えェ?せやけど、俺、全然、迷惑ちがいますし。ずっと、このまま言うことですか?」
ふふふ、と館長が意味有りげな流し目をよこした。普段は糸目のタレ目で人が良さそうなだけに、こういう表情は意外と悪者感がある。
「山本校長はそのつもりで、やってるんですよ。今、学校はどこも人手不足やからね。ああ見えて、昔からやり手なんです、彼。」
岩谷館長は校長出身の館長なので、学校のことには詳しい。
「そうは見えませんけどね。でも山本先生、俺なんかに勉強みさせて心配ちがうんですかね?」
館長は大袈裟に驚いてみせた。
「西野君、教免、持ってはるやないですか。」
俺は思わず吹き出した。
「イヤ、社会だけですし…。実習行って、向いてない思たから、CSWやってるんです。思春期の子ども、苦手なんです。何考えてるか、わかりませんし。特に女のコは、難解過ぎますわ。」
ウンウンと館長は頷いた。
「それだけわかってたら、十分、十分。じゃ、ミユちゃんをお願いします。」
追い払うように、館長は俺の背中をトンっと押した。俺は少しだけ早足になって図書室に向かった。
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