スターチスの栞

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どうやら私には、前世とやらの記憶があるらしい。 それに気づいたのは、ついさっきだけど。 イケメンがいるから、と見学に連れていかれた大学の剣道場で、竹刀を振る姿。面をつけている為顔は見えないが、見覚えがあると感じた。 剣道をしている知り合いなんてしらないのに。そう思っていると、こちらのあげていた声が気に障ったのかフッと彼がこちらを向いた。 その態度と雰囲気に誰かが重なり、気づくと私は涙を零していた。 ぎょっとして私を見る部員に軽く頭を下げ、友人に「ごめん、一寸気分悪いから今日は帰るね」と囁くと友人は呆然としたまま軽く頷いた。 涙の理由は程なくして分かった。 私は、かつて……前世、あの人と心を通わせ、結ばれなかったんだ。そして出家して、死んだ。 「伊勢……」 彼が呼んでくれた名を呟く。そうしている間にも、記憶は留まることを知らず流れ込んでくる。父だった千葉采女のこと、あの人の重臣で、私たちを引き裂いた柿崎景家のこと……。 彼らも転生しているのだろうか。そんなことが頭の片隅に浮かぶけれど、それどころではない。 普通、人間は前世の記憶など持たない、と思うし。 どうすべきなのか、といくら考えても答えは出なかった。 あの人に会ったら、会いたい、会いたくない。 そんなことばっかり頭に浮かんでは消えていく。 その後私は熱を出して一週間大学を休んだ。 お見舞いに来た友人にあの人のことを聞いてみると、興味津々といった感じを隠すことなく迫られた。 きゃあきゃあと騒ぐ彼女曰く、彼が噂のイケメンだったらしい。 「――のこと、何かすっごく気にしてて~、お見舞い行くって話したらこれ持ってってって」 何かと思えばそれは押し花が挟まれた栞で。 紫とピンクの小さい花が可愛らしかった。 「彼、誰にも贈り物しないって噂なのに。珍しー」 そんな声をBGMに、何気なく花の名前を調べてみる。ついでに花言葉も。 検索結果をタップすると花は「スターチス」。 そしてその花言葉は…… 変わらぬ心、途絶えぬ記憶。 まさか、ね? それがまさかでなかった事を知るのはまた後日のこと。
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