一攫千金

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 カリフォルニアのとある山に、とある老人がいました。  老人は金を手に入れようと、毎日毎日いっしょうけんめいに穴を掘っています。  アメリカでは大金持ちになって人生がぐるりと変わった貧乏人が大勢いるという噂を聞きつけ、老人ははるばるイギリスからやってきたのです。  しかし、かれこれ3年ちかく穴を掘り続けていますが、てんで金は顔を出そうとしません。だから老人は今日成果が実らなかったら、あきらめて山を降りると決めていました。  なので今までとは気合いが違います。その日は特別に深い深い穴を掘り進めていました。もう昼過ぎになりますが、老人は時間を忘れ、夢中になって掘り続けていました。  でも金はいっこうに現れません。いよいよ老人はあせりといらいらも積もって、体がねじれそうになるほどスコップをひきしぼり、渾身の一撃を地面におみまいしました。  その途端、スコップにガチリ! と硬い岩か何かが当たった音がしました。老人は息を飲みました。そして小さいスコップに持ち替えて、ゆっくりと土をかき分けました。  すると、土の間から手のひらいっぱいほどの石が出てきました。でもただの石ではありません。よく見ると、黄色いキラキラしたものがこびりついているではありませんか。間違いありません、金です。老人は驚きと、喜びと、感動と、ありとあらゆるものが入り混ざって体を震わせました。今までの苦労が報われた瞬間です。老人は今日掘った穴のもっと下に、もっと大きな金が眠っていると確信しました。すると、まるで風船が弾けるかのようにいきなり歓喜の悲鳴をあげながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねて穴から飛び出しました。  穴の外で待っていたのは上半身裸の槍を持ったヤヒ族の男でした。ヤヒ族は入植者たちに自分の故郷を奪われました。なので男は、入植者の一人である老人を憎しみの目で睨んでおります。老人は驚いて声をあげずに、その場に固まりました。  やがてヤヒ族の男が高い声をあげ、槍を構えて老人に襲いかかりました。老人はその声で我にかえり、おおあわてで逃げました。もちろん大事な金は忘れません。  ヤヒ族の男は逃げまどう老人の背中めがけて槍を投げました。でも間一髪、老人に当たることはありませんでした。しかしあっという間に老人は男に捕まり、馬乗りにされてしまいました。そして男は腰にかけていた斧を取り出して、老人を殺そうとしました。  いっかんの終わりです。老人は死にものぐるいに暴れ、右手に掴んでいた石で男のこめかみを力いっぱい殴りました。ヤヒ族の男は悲鳴をあげて地面に倒れました。形成逆転です。老人は何度も何度も石で男の頭を殴りました。ヤヒ族の男は血まみれになって死んでしまいました。老人の右手と、持っていた石も血で真っ赤に染まっていました。老人は息も絶え絶えになり、死んでいる男の隣にあおむけになって倒れました。  すると、老人に影がおおい被さりました。老人が「おや誰だろう」と思ったその瞬間、けたたましい銃声が山にこだましました。老人は何者かに頭を撃ち抜かれて殺されてしまいました。  老人を殺したのは黒人の無法者でした。彼はもともと奴隷の身分ですから、ひどい差別にさらされていました。だからまともな職にありつけることもできずに生活に困った結果、こういった犯罪に手を染めていきました。黒人の無法者はたばこを巻き、それを選別として老人の死体の上にポイと放ると、老人の指をほどいて石を奪いました。  黒人の無法者が満悦の表情で石をふところにしまい、元来た道を戻るため後ろを振り向きました。彼を待ち受けていたのは、馬車に乗ったでっぷりと太った白人の地主と、ライフルを構えた手下でした。黒人の無法者は突然の出来事に固まりました。  地主は何も言わず、左手でたばこを吹かし、右手のひらを上に向けて、指をせわしなくしばたたかせました。その金をよこせという催促でした。多勢に無勢、黒人の無法者はあきらめてふところから金の石と取り出し、地主に手渡しました。地主はにたつきながら皮肉めいた調子で「ありがとう」と言い、手綱を引いて山を降りていきました。黒人の無法者は悔しくて地団駄を踏んで怒り狂いました。  この男はこうやって何の苦労もせずに他人の財産――といっても元は老人の、いえ、ヤヒ族の大地に眠っていたから彼らのものなのかもしれません――を横取りしては私腹を肥やしている悪徳地主でした。  こうして結局、金は悪者の手に渡ってしまいました。
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