つつじさん。

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「……まあ、気持ちはわかるよ。私だって正直ありえねーって思ってるもん」  突然部屋に転がり込んできたあたしに嫌な顔をするでもなく、付き合ってビール缶を開けてくれる美伽乃。 「できればギャフンと言わせてやりたいよね。まあ、残念ながら正攻法じゃ無理なんですけど。私達もうすっかりオバサンですし」 「オバサン言うなよ美伽乃ー!まだ三十五!まだまだ若いもんー!あんな女に負けたりしないもんー!」 「三十五歳が“もん”とかやめなさい、流石に痛いから」 「ぶぅぅー!」  テーブルの下で足をバタバタさせるあたしである。酔うと言動が幼くなる、なんていうのはどうにも本当だったらしい。というか、もう誰彼構わずキスしたくなる気持ちもなんとなくわかってしまうほどだ。  寂しくて堪らない。何を悲しくて、こんな年まで大事に処女を取っておかなくてはならないのやら。 「まあ、気休め程度だけど。おまじないにでも頼ってみる?つーか都市伝説みたいなもんだけどさ」  あんまりにも落ち着かないあたしを見かねたのか、美伽乃が苦笑しながら話始めた。 「もかさー、ツツジの花言葉って知ってる?」 「うぬ?花言葉ぁ?ってかツツジってあれだよね、道端で今の時期よく咲いてるやつ。ピンクとか赤とか白とかの」 「そうそうそれ。花言葉って、実は色によっても違ったりするんだよね。ツツジは知ってる? ツツジ全般の花言葉は“節度”“慎み”。色によっても違うんだよ。つっても、私が知ってるのは赤と白だけで、他の色にはあるのかどーかもよくわからないんだけどね。ちなみに英語だと別の花言葉があるんだってさ。“temperance(節制、禁酒)”“take care of yourself for me(私のためにお体を大切に)”“fragility(もろさ、はかなさ)”だってー」  彼女いわく。赤いツツジの花言葉は“恋の喜び”。白いツツジの花言葉は“初恋”なのだという。花言葉というものには恋愛をイメージさせるものが多そうだと感じていたが、どうやら本当であったらしい。  なお赤いツツジの花言葉は、陽の光に輝く赤い花を一斉に咲かせることから来ていて、白いツツジの花言葉は純白の花の清らかさに由来するといわれるのだそう。なんだかロマンチックではある。 「で、ここからが本題ね。……ツツジには、普通なら絶対に見られないような特別な色があるらしいの。……白地に、赤の斑模様、ってのがね」 「え、なにそれ?なんか毒々しくない?可愛いお花が台無しカラー」 「だね。それもそのはず。その色は……白い花が血で斑に染まって出来たから、って言われてるからなんだよね」  なんだか、一気に話がホラーっぽくなってきた。少しだけ興味が沸いてきたあたしは、それで?と続きを促す。 「数十年前にね。この町のビルから一人の女の人が飛び降り自殺したらしいの。で、落ちた先がツツジの植え込みだったらしくて……植わっていたツツジがね、彼女の血で赤く斑模様に染まっちゃったっていうのね。彼女の遺体は酷いもので、骨は飛び出すわ肉は潰れるわの散々なものだったらしいんだけど」  声をひそめ、グロテスクな内容をがっつり語ってくれる美伽乃。あたしがグロ系平気な女子だと知ってのことだろう。むしろ、ホラー映画はそこそこの頻度で見に行くくらい好きな方だ。 「彼女が死んだ理由が、失恋でね。以来彼女は、恋に破れた女の子の味方をして助けてくれる幽霊になったんだとさ。今の時期、道にツツジがいっぱい咲いてるところなんかたくさんあるでしょ?ツツジが咲いてる時期、ツツジの植え込みの前で“つつじさま、憎い相手を呪いたいので力を貸してください”って相手の名前と一緒に唱えてお願いすると……彼女、“つつじさま”が相手に制裁を加えてくれるんだってさ!」 「制裁って具体的には?」 「さあ?あ、でもお願いするにはこっちも対価がいるらしいよ。先払いで対価を払うと、それに見合う制裁をしてくれるんだって。まあ、軽い悪戯お願いしたいなら、軽い対価払っておけばいいんじゃない?」  なんだか、肝心なところがぼんやりしている。いい加減だなぁ、とあたしは苦笑しながら――つつじさま、について考えていた。 「彼女が現れる時、花壇のツツジはみんな……白地に赤の斑模様に染まるんだって。赤斑のツツジには“貴方を断罪したい”っていう、他の色とは違って物騒な花言葉がついてるらしいよー」  ぴったりでしょ、と美伽乃は笑った。 「まあ、気が向いたらやってみたら?ざまぁできたら最高にスカッとするでしょ、あーんなムカつく女」
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