つつじさん。

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「つ……つつじ、さま?」  呼び掛けた、その時。ずる、と。足下から這いずるような音が聞こえた。何だろうと思って自分の足を見たあたしは驚くことになる。  あたしの足下だけが、コンクリートではなくなっている。  真っ白な色に血飛沫をまぶせた呪わしい花が、みっしりと敷き詰められているのだ。  否、それだけではない。花の隙間から何かが覗いている。何か、植物ではないものが、生えて――。 「ひいいいい!」  悲鳴を上げ、尻餅をついた。  花の隙間から除いていたのは、指。それも正常ではない、間接を無視してぐにゃぐにゃと曲がった指が生えてきているのだ。それがぐにょぐにょと蠢きながらあたしに迫り――ガッ!と右足首を掴んで来たのである。 「い、いやっ!何するの、ねえっ!」  ぐいぐいとあたしの足を痛いほどの力で握り、引っ張る指。明らかに“呼ばれたもの”はあたしに対して害意を持っていた。  そんな馬鹿な、と思う。対価として、大事にしていた指輪とか小物とか、そういうものを差し出せばいいと思って持ってきていたのだ。自分はあくまで彼女の“召喚主”ではないか。それなのに何故、こんな風に殺意に近いものを向けられているのだろう?  捕まれた足首が、ぎしぎしと軋みを上げる。花の中に、引きずり込まれそうになっている。激痛に悲鳴を上げるあたしは、この土壇場で美伽乃の言葉を思い出していた。 『まあ、もかは大丈夫だと思うけど、一応言っとくね。その都市伝説、ちょっとだけ気を付けなくちゃいけないことがあるっぽいの』 『え、なにを?』 『つまりねー』  まさか、と思う。  恨んでいたのは自分だけではなかったのか。  あの萌美が、まさか。 『呪いは先着順。早い者勝ちで、優先されるらしいのよー』  ぶちり、ぼきり。凄まじい音が響き、あたしは絶叫していた。  花の中から、ノイズ混じりの声が響く、響く、響く。 『“アナタヲ ダンザイ シタイ”』  半分の長さになってしまったあたしの足から、真っ赤な色が噴き上がる。  ボタボタ飛び散るそれは、白い花にさらに赤い斑点を増やしていった。ざわざわと、まるで嘲るように風に揺れながら。
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