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互いに告白を済ませたけれど、色々とやらなくてはいけないことがある。
『ブォォオオオッ!』
ドライヤーの音を部屋に響かせる中、俺はチラリと雪豹さんを見る。
俺の服に着替えた雪豹さんは、季節はずれにも扇風機の風を浴びていた。ちなみに風力は【強】だ。
そのまま冷蔵庫と冷凍庫から雪を取り出し、手からグングン吸収している。
ドライヤーの電源を切り、俺は縮こまっている雪豹さんに声をかけた。
「雪豹さん」
「ひゃいっ!」
丸まっていた背中が突然、ピンと伸ばされる。裏返った声で返事をした雪豹さんは、ぎこちない動きで俺を振り返った。
……そこまで意識されると、こちらも緊張してしまうのだが。
「服、乾かしました。皮膚も問題ありません」
「あ……えっと、あ、はいっ! ボクも、あの、必要な雪は摂取しました。えっと、体もしっかり冷やして、ます……っ」
「そのようですね」
ペタリと床に座り込んでいる雪豹さんに近付き、俺も床に座る。
ジッと見つめると、雪豹さんの視線がせわしなく彷徨った。けれど意を決してくれたのか、俺を見上げてくれる。
やるべきことは済ませた。だから俺は、やっと言いたいことを言える。
「――抱き締めて、いいですか」
濡れた服と体では、雪豹さんに触れない。雪豹さんも雪豹さんで、何の対策も無しに抱き合うのは自殺行為だと思ったのだろう。だから扇風機で体を冷やした筈だ。
しっかり見つめてそう確認すると、雪豹さんの視線が外される。
「…………っ、は、ひゃい……っ」
今のどこでどう噛んだのか全く分からない。
しかし、可愛い。これが俗に言う【惚れた弱み】というものだろうか。
「失礼します」
「っ、うぅ」
優しく、砕いてしまわないよう、丁寧に。
両腕で雪豹さんを抱き締めると、雪豹さんが小さく身じろいだ。しかし、嫌がっているわけではないらしい。
現に雪豹さんは、背中に腕を回してくれている。
「好きです、雪豹さん」
「あ、あぁぁ、は、はい……っ」
「雪豹さんも言ってください」
「ひぇっ! あ、あの、す、好き、ですっ」
ム、いけない。毛先から水滴が垂れてきた。
体を離し、俺は雪豹さんと距離を取る。雪豹さんは少しだけ悲しそうな表情をしていた気がするけれど、こればっかりは仕方ない。
「来年も、俺のこと……診てくれますか」
「み、見ますっ! いっぱい見ます!」
「い、いっぱい……あ、ありがとうございます」
今年の診察はもう終わってしまったけれど、来年も通院する。
つまりまた、俺は雪豹さんと会えるのだ。
「これからまた、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……っ!」
もっと触れたいという気持ちは、正直あるけれど。
――これから先、ずっとずっと……何度でも会えるのだから、ゆっくり進めていこうと思う。
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