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「ウイース。」
キャデラック・スタジオ所属のベテラン声優である佐藤が、気だるそうにスタジオに入ってきた。
「おはようございます。佐藤さん。あれ?テンション低いですね。」
元気のなさを心配して、佐藤の後輩声優、加奈子が、佐藤に挨拶しながら近づいた。
「いやさ、加奈子さん。今日の私は不幸続きでさ。」
佐藤は、体調が悪いんじゃないよと言うように、オーバーにうなだれた。
「今日は、焼き立てのメロンパンの日だから、張り切って売り場に行ったら、サイフを忘れててさ。」
「あー、私はサザエさんかっ!って自分ツッコミしちゃうやつですね。」
「で、サイフ持って、もう一回行ったら売り切れでさ。」
「あー、それはもう、ドジっ子フラグ、立っちゃってますね。」
「もう、どうにも我慢できないから、違う店に行って、売り切れる前に慌てて買ったら、皮をむいた『はっさく』でさ。」
「アハハ!『はっさく』だけに『傑作』ですね!」
加奈子との世間話で元気を取り戻しつつあった佐藤であったが、くだらないダジャレに付き合えるほど回復はしていなかった。
「あー、後輩にくだらないダジャレを聞かされるし、もう最悪!」
「まあまあ、誰が悪いわけでもないんですから。」
「最後のダジャレは加奈子さんが悪いだろ。」
とはいえ、気の置けない後輩との世間話で、佐藤は少し気分を変えることができた。
佐藤は加奈子に心の中で感謝しながら、荷物を録音ブースのテーブルに置き、仕事の準備に取り掛かった。
そこへ、
「グッドモーニング!ニョクマム!」
勢いよくドアを開けてマネージャーが入ってきた。
空気を読まないはしゃぎっぷりに、持ち直しかけた佐藤の気持ちは、また沈んでいった。
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