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それから、三分もしないうちに晴哉は花壇の前に戻って来ていた。
花壇の除草作業は七割ほど終わっている。
「俺も手伝うよ」
そういうと、晴哉が腰を下ろして雑草をむしり始める。
「ごめん。ありがとう」
短い返事で礼を告げると二人で黙々と作業を続けていく。晴哉の手伝いもあって、大分時間を短縮して作業を終わらせることができた。
花壇から降りると全体を見渡して晴哉が口を開く。
「恵奈はここに咲いてる花の名前、全部わかんの?」
「まぁ、多分」
花壇に人差し指を向けて左から順に名前を答えていく。
「サルビア、ポーチュラカ、ニチニチソウ、マリーゴールドって感じかな」
「そんな名前なんだ。マリーゴールド以外聞いたことなかったわ」
晴哉は少し考え込むように手を顎の下につけ、私を見つめる。
「ねぇ、花って花言葉あるじゃん。そういうのもわかるの?」
自分は花に対する関心が強いのかもしれない。前に調べていた花言葉を何故だか覚えていた。
「サルビアは尊敬、ポーチュラカは元気、ニチニチソウは友情、マリーゴールドは悲しみだったと思うよ」
晴哉は目を見開いて驚いた表情を見せた。
「本当にすごいな。そんなに花のこと知ってるなんて」
「別にすごいってことはないよ。ただ興味があったから覚えてただけだし」
褒められるのに慣れていないせいかちょっと恥ずかしさを感じていると、晴哉が手でカメラを撮るようなポーズを私の顔に向ける。
「なにそれ?」
「花を見る恵奈、様になってるなと思って」
自分の頬が熱くなるのを感じる。
「馬鹿にしてるでしょ」
「してないよ。本当にすごいと思った」
にやにやした顔から一転して真剣な表情で言う晴哉を見ると、からかっている訳ではなく本当に褒めてくれていることがわかる。
全然そんなことないのにな。こんなこと知ってるからって一体なんの役に立つのだろうか。
そんなことを考えていると晴哉が口を開く。
「じゃあ、俺もう帰るから。バイバイ」
「うん。さよなら」
言葉を交わすと晴哉は、私に背を向けて花壇から離れていく。私はその後ろ姿を無意識に眺めていた。
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