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1 (圭人視点)
ふいに、右の肩から指先にかけて痺れるような痛みが走った。
圭人は三秒、動きを止めたあと、休ませていた左手を股間に持って行く。両脚を今まで以上に広げ、おむつ交換をされる赤ん坊のように尻を浮かせ、ぬかるんだ後孔に束ねた三本の指を挿入した。
「はあっ……あっ……」
熱く熟れた内部は反発することなく、己の指をスムーズに飲み込んでいく。
指の付け根まで中に納め、すぐに抜き差しを始めた。ぐちゅっ、ぬちゅっ、と体液の絡まる音が狭い部屋に響く。
お気に入りの場所を指で何度も刺激すると、灼熱感のある快さが沸き起こり、ブルブルと全身が震える。
「ん、ん、あ……」
乾いた喉からは掠れた声しか出ない。喘ぐだけで息が苦しい。でも止められない。
疼く体をこうやって慰めていないと、自分がどうにかなってしまう。
快感と疲労で霞んだ視界に、ぐっしょり濡れた自分の股間が映る。何度も射精しているのに満足できていなかった。
指を食んだ蕾がひくひくと痙攣している。じれったそうに。
――はやく、はやく。
圭人は顔を横に向け、壁時計を見る。あと二、三分で十七時になる。やっとだ。
もうすぐ恋人が帰ってくる。
圭人はベッドサイドのテーブルに手を伸ばした。蓋を外したままのペットボトルを取り、一気に水を飲む。
ここは恋人のアパートだった。木造の八畳一間。窓もカーテンも閉め切って、電気もつけずに、圭人はひたすら自慰に耽っていた。五時間以上も。
もう一度壁時計を見る。十七時ちょうど。
「は、やく帰って来いよ……」
思わず圭人は舌打ちをした。
今日に限って、恋人は朝から夕方まで仕事が入っていた。
動かし続けている左手が痺れてきた。
――疲れた。
手だけではない。頭からつま先まで倦怠感で覆われている。本当は眠ってしまいたい。でも無理だ。男に貫かれてイきまくらないと、この発情した体は収まらない。
肩で息をしながら、圭人が自慰の手を交換しようとしたときだった。
キイ、とドアの開く音が聞こえた。そして待ち望んでいた恋人の「ただいま」。
「柾(まさき)」
反射的に恋人の名を呼び、圭人は体を起こした。一糸まとわぬ姿で、玄関へと向かう。が、脚がガクガクしてうまく走れず、途中にあるキッチンのシンクに手を置いて体を支えた。
玄関のドアに鍵を掛けた恋人が、慌てたように圭人の元に走り寄ってくる。
「大丈夫?」
抱きかかえるようにして圭人を支えてくれる。自分よりずっと背が高く、体格の良い男。――αらしい、αの男。
圭人は十五センチ差の恋人を見上げ、首を横に振った。
全然大丈夫ではない。ヒートが始まってから五時間以上経っているのだ。それに――恋人の放つ強烈なαのフェロモン――。立っているだけで眩暈がする。早く、一刻も早く、発情しきったこの体を宥めて欲しい。αの欲望で。
「はやく抱いて」
悲鳴混じりの声になって懇願した。
正気じゃない、と思う。いつもの自分なら言えない科白。
自分より一回り大きい手が、濡れそぼった股間をひと撫でしてくる。
「――トロトロだな」
恋人の美声が、圭人の耳たぶを撫でた。それだけのことで全身に快感が走った。どこもかしこも性感帯になっている。
柾が下着とジーンズを同時に脱ぎ捨て、圭人を抱き上げた。そのまま、近くにあるダイニングテーブルに仰向けに寝かせられ、両脚を割られた。
「入れるよ」
「入れてっ」
柾の牡はすでに硬く、反り返っている。彼もΩのフェロモンにやられているのだろう。何もしていないのに、完全に勃起している。
前戯など一切なく、遠慮なく恋人の充溢が挿入口にあてがわれる。ぐしょぐしょに濡れた蕾を捲り上げ、太い部分が難なく通過していく。圭人のそこは、自分の愛液で滑っていた。αを受け入れるための体になっている。
ぐうぅと一気に奥まで侵入され、圭人は「ああ!」と歓喜の声を上げた。
――これ、これが欲しかった。ずっと。
「きもちい……きもちいい」
バカみたいに、同じ言葉を繰り返す。
圭人の心も体も、恋人の性器で満たされる喜びで一杯になる。たくさん突いて、たくさん中に精液を出してほしい――そんな願望一色になる。
激しい抽挿を繰り返しながら、柾が圭人の乳首を摘まんでくる。そこを弄られると、連動するように蕾がキュッと窄まり、恋人を包む襞もざわめくように蠕動する。
「あ――締まる」
柾が呻くように言った。彼の性器がひと際大きくなる。敏感になった内壁は、恋人の性器の血管まで察知できた。
「圭人、一回出すぞ」
少し悔しそうな声で柾が言った。
圭人は必死に頷きながら、より深くつながりたくて、柾の首に腕を巻き付け、体を引き寄せた。
「あっあ、ひ、ひあっ」
より深く恋人を受け入れることに成功し、目がくらむような快感に襲われる。通電されたみたいに全身がびく、びく、と痙攣し、体内の柾を狂ったようにぎゅっと締め付けた。
柾に一際強く抱きしめられ、両手で腰を持ち上げられた。
「あー……」
温かいものが内奥に注ぎ込まれる感触がする。その量はおびただしい。
内部に恋人の精液が染みわたっていく。指先からつま先まで充足感に満たされ、圭人の口からはふう、と安堵のため息が零れた。
少しだけ、体が落ち着いた。先ほどの、狂気じみた欲情が収まってきた。
でも、まだ完全に満足しているわけではなく。
「柾、もっとちょうだい」
甘えた声で、圭人は二回目を催促する。
「もちろん」
一度吐精した恋人のものは硬さを維持している。
αは性的な面でも優れている。絶倫だ。
ましてや、自分たちは運命の番なのだ。体の相性も最高だ。
初めて会ったときから、お互い一目惚れをした。その容姿と香りに魅了されたのだ。
「圭人、好きだよ」
まっすぐな目で見下ろされ、圭人は微笑んだ。嘘のない言葉だと信じられた。
恋人を見つめ返し、逞しい腰に自分の足を巻き付けた。
今日から一週間、自分の発情期が続く。恋人に激しく犯され、中に何度も出されるのかと思うと、それだけで腰がぞくぞくする。
こんなに辛いのに、やってくるのが待ち遠しい――矛盾を孕んだ七日間。
「俺も柾が好き」
囁くように言うと、内部の熱い肉がよけい大きくなる。嬉しそうに、生き物のように膨らむのだ。
圭人は己の臍の周りを撫でながら、恋人に深いキスを仕掛けた。
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