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11日目
平日は基本学校があるから、朝の挨拶とお昼ご飯とそれから帰り一緒に過ごす程度で、頻繁に連絡とったりとか休み時間毎に会いに行ったりとかはしなかった。
放課後、一緒に帰るために教室まで染川さんを迎えに行ったら、染川さんの姿が見当たらなかった。キョロキョロしてたら、ちょうど帰ろうとしていた宮下さんが俺に声をかけてくれた。
「ユキなら職員室に球技祭の資料提出しに行ったよ。もうすぐ戻るんじゃん?」
「あ、そうなの。でも何で球技祭の資料?」
「ユキが球技祭の実行委員だからっしょ」
それは初耳だった。うちの高校では、各行事の実行委員を立候補制でクラスで数名選出する。俺は去年も今年も文化祭実行委員をやる事になったけど、てっきり染川さんもそうだと思ってた。強制ではないけど、一回経験のある人の方が運営がスムーズに進むとかで例年同じ人がやるのが暗黙の了解みたいになっているし。
「へぇ、球技祭の……。染川さんって球技も出来るんだ」
まあ実行委員だから球技の腕前が問われることは無いけど、大体自分の得意分野の実行委員を選ぶ人が多い。球技祭や体育祭は運動部系の人が率先してやってたりするし。
「そんな凄い得意ってとこはないんだろうけどさ。ユキの事だし二年連続同じ実行委員は飽きるんでしょ、多分」
確かに。その可能性は高い。というか間違いなくそうだろう。
「ワカマさぁ」
不意に宮下さんが口を開く。
「正直巻き込まれた側だと思うし、もしかしたらユキと付き合うの不服なのかもしんないけどさ、ユキが次の退屈しのぎ見付けるまでは悪いんだけど付き合ってあげて欲しいんだよね」
「へ?」
「あの子ちょっと変わってるし、飽きっぽくて気分もコロコロ変わるから、関わってくうちにめんどくさくなったりすると思うんだけど、今のところワカマと喋ったりしてんのは楽しそうだからさ。ワカマが構ってくれてる間は自殺とかしなくて済むと思うんだよね」
「はぁ……」
別に嫌々付き合ってるわけじゃないんだけど。今のところ特に迷惑って感じではないし。ただお互いに恋愛感情が無いから恋人って位置づけはどうなんだって感じだけど。これ普通に仲のいい友達でも変わらないよなって思う時はある。
「とにかく、ワカマはユキが面白がる事考えるのが仕事だから!」
「ええっ、そんな無茶苦茶な。大体面白いことって何? 俺が知りたいんだけど」
「なになにー? なんの話ししてたの〜?」
不意に俺の後ろから染川さんが飛び出してきた。
「うぉわっ! 染川さん! いたの」
「今戻ったとこだよ! さ、帰ろう若島くん」
「じゃあまたな〜」
染川さんが戻ったのを見届けて、宮下さんは話を切り上げ帰っていった。俺たちも、放課後の部活をしている生徒たちを横目に帰路につく。
「そういえば宮下さんて部活やってないの」
「あっちゃんはやりたい部活が無かったからどこにも入らないって言ってたよ。若島くんも部活やってないよね?」
奇遇だが俺も宮下さんと同じ理由で部活に入ってない。最初は担任に言われ渋々園芸部に入ったが、一ヶ月もたず辞めてしまった。
「俺もそんな感じ。本当は演劇部に入りたかったんだけど、うち演劇部無いからさ」
「おぉっ?!」
突然染川さんが、大きな声を出すので、俺は思わずビクッとしてしまった。
「な、なに?」
「演劇部! あっちゃんも演劇部に入りたかったんだよ! すごいね、すごい偶然!」
「え、そうだったの」
確かにそれはすごい偶然だ。
「でも意外だなぁ。宮下さんが演技やりたいなんて」
「あっちゃんはミュージカルがやりたいんだよ。将来は舞台女優になりたいって言ってたけど難しいんだって。すごい歌上手なのになぁ」
ミュージカル。そういえばこの前ピアノ弾けるって言ってたし、そういう繋がりだったのかな。
「私としては若島くんの方が意外だよ! 若島くんも舞台俳優になりたいの?」
そう問われて、俺は全力で首を横に振った。
「まさか、俺には無理だよ。俺は裏方をやりたいんだ。中学の時も演劇部の裏方をやっててね。文化祭で俺の書いた話を使ってもらえたり、あっ」
思わず口が滑ってしまった。
「若島くん台本書けるの?! すごいよ! 今度見せて!」
「そ、そんな凄いものじゃないけど……今度ね」
褒められたことが嬉しくなって、つい言ってしまった。趣味で書いてる程度で知り合いに見せるのはちょっと恥ずかしくもある。
「なんかみんなで演劇部作るの楽しそうだね。脚本書ける人がいるなら人集めればすぐ出来そうじゃない?」
染川さんは何気なくそう言う。その提案は俺にとって衝撃だったし、考え付かない事だった。
「みんなで演劇部……! それ、すごくいいかも!」
考えただけでドキドキしてしまう。もし本当にそんなことが出来たら、また演劇を作ることが出来たら。
俺の顔を覗き込んで、染川さんはニコニコ笑った。
「若島くん、なんか楽しそう」
「ちょっと、楽しいかも」
俺もつられて笑ってしまった。明日宮下さんに話してみようかな。色々考えるとすごくワクワクしてしまった。
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