12日目

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12日目

俺は朝、染川さんに挨拶しに行くついでに、宮下さんに演劇部の話をしてみた。 「ユキが言ったの?」 「ダメだった?」 宮下さんは珍しく恥ずかしそうにしている。確かに他人に将来の夢とかバレるのは恥ずかしいかもしれない。 「どうかな? 演劇部作らない?」 「どうかなどうかな? 私も入りたいな!」 キラキラ目を輝かせる二人に、宮下さんはちょっと引き気味だった。 「そりゃさ、作れるなら作りたいけど。多分無理だよそれ」 宮下さんの話によると、部活を作るには最低八人の部員が必要で、少なくとも各学年二人ずつ居ないといけないらしい。それから、顧問になってくれる先生も探さないといけない。八人も人を集めるうえに、他学年まで声を掛けなきゃいけないなんて、俺の人脈では到底無理だ。 昼休みになっても、演劇部が諦めきれず、俺は深いため息をついた。それを見た徳人が不思議そうな顔をする。 「何? とーまがため息ついてる。めずらし〜」 「きっと演劇部の事だよ。若島くん、諦めるのはまだ早いよ。あと四人だよ、きっとすぐに見つかるって!」 「何? なんの話?」 染川さんが一連の流れを徳人に説明している。 「フーン。なんか大変そうだね。」 「え、大変そうだねって、他人事みたいに言ってる場合じゃないよ! 青柳くんも人数に入ってるんだから!」 「俺ぇ?!」 染川さんは突然そんなことを言い出す。染川さんって、たまにこういう強引というか、強気な部分がある気がする。もちろん悪い意味ではないんだけど。 「二年は別に足りてるじゃん? それに俺ユーレー部員だけど一応陸上部なんだよね」 「みんなでやる方が楽しいと思うんだよね!それに幽霊部員なんでしょ? じゃあ大丈夫だよ」 「ええっ、俺、演技とか出来ないし〜」 徳人がこっちに視線を送る。助けを求めているらしい。 「ケイトの友達で誰かいないの? あんた顔広そうじゃん」 意外にも俺より先に助け舟を出したのは宮下さんだった。 「んー、一年と三年に二人? ビミョ〜。部活入ってないのいるけど演劇やるかなぁ? 声だけかけてみるわ」 こういう時に徳人はめちゃくちゃ頼もしい。もちろん普段から頼もしくはあるんだけど、こういう人絡みの時は特に頼もしく感じる。 「てか後輩なら江永チャンでいいじゃん。もう声掛けた?」 「え?」 俺が聞き返すと、徳人は眉間にシワを寄せる。 「え? って、忘れたん? 江永チャンだよ江永詞音」 「えなが……ことね……? って、え? あの江永さん?」 「それ以外誰がいんだよ」 「え? 高校一緒なの?」 「はあ?! 知らなかったのかよ」 江永詞音といえば、中学の時同じ演劇部の後輩だった子だ。よく演劇の事について語ったりしていて、それなりに仲がよかった方だったと思う。演技も凄く上手で、演劇に対する熱意もすごかったし、てっきり演劇系に強い高校にでも行ったのかと思ってた。 「誰そのエナガコトネって?」 「あぁ、中学の時の後輩。演劇部出身だから声掛けたらきっと入ってくれると思うよ」 「じゃあ後輩枠一人確定だね! あと三人かぁ」 「ところで俺は頭数から外してもらえたんすかね……?」 結構本格的に部活立ち上げの話が盛り上がりつつある。とりあえず江永さんには月曜にでも声をかけに行こう。しばらく連絡とってなかったけど、忘れられてたりしないだろうか。ちょっと不安だ。
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