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13日目
今日はフルタイムでバイトだった。休憩時間中、シフト表を見ながら、来月の予定を考える。今までは土日は基本フルタイムでバイトしている。明日はたまたま休みだったけれど、バイトに生きてる人間なので、土日の片方は染川さんと遊び行く用に意図して空けておいた方がいいかもしれない。今後のシフトについて考えていたら、同じく休憩になった店長が休憩室に顔を出した。
「よっ、若島くんおつかれぃ」
「お疲れ様です」
店長は見た目ガッシリしていて、見た目だけだとプロレスラーとかスポーツ選手っぽいけど、性格は陽気で気さくで面白い。保育園の先生とか子供向けテレビ番組の体操のお兄さんみたいなイメージが近い。
「シフト悩んでるの? 来月忙しい? 無理ない程度で来てくれればいいからね」
「ありがとうございます」
そういえば、もし仮に演劇部が結成できたとして、放課後入れてるシフトを削らなきゃいけなくなるかもしれない。もしもの話だけど、染川さん結構やる気満々だったし、急に決まるよりは前もって伝えておく方が店長も困らないかもしれない。
「あの、店長。もしかすると自分、平日のシフト減るかもしれないです」
「そうなの? まあ高校生忙しいもんね。勉強?」
「いや、まだ全然決まったわけじゃないんですけど、演劇部作るかもしれなくて、部活できたら入部しようって話なんです」
「へぇ、部活作るの! いいねぇ、青春だねぇ。でも部活の立ち上げって大変そうだね。若島くん部長とか?」
「部長とかそういう話はまだ全然……。そもそも出来るかどうかも怪しいんです。人数集めが大変そうで」
「人数かぁ、大変そうだねぇ。東くん同じ高校でしょ、誘ってみたら?」
「ひ、東さん……ですか?」
東さんというのは、同じくここでバイトしている三年の先輩だ。偶然高校は一緒だけど、ちょっと強面で声がかけにくい。東さんと店長がシフト被ってる時は、二人一緒にホールに出るといかつくなってしまうので、必ず片方はキッチン担当にする事になっている。
「東さん、演劇とか興味あるんですかね」
「んー、確かに。東くん素直だから演技とか苦手そうかもねぇ」
東さんが演技してるところを想像したのか、店長はクスクス笑いながら言った。
「でも東くん、服飾系得意だって言ってたよ。衣装作りとか出来る人いると頼もしくない?」
「えっ、そうなんです?」
意外すぎる。とても縫い物が得意そうには見えないが。人間見た目にはよらないなぁ。
「じゃあ声掛けてみようかな……まぁ、断られちゃいそうな気がしますけどね」
ははは、と苦笑いしながらそう言ってしまった。とても演劇部に入ってくれるとは思えないけど、店長に言ってしまった手前声をかけないわけにいかないよなぁ。江永さんはともかく、難易度の高いミッションが発生してしまった……。
バイト終わり、スマホには染川さんから数件メッセージがきていた。
「明日の天気、最高。いい動物園日和になるでしょう」
何故か天気予報士のような口調の文面。でも、染川さんが楽しそうな感じが伝わってくる。なんだか俺も楽しみになってきた。
明日はいろんな写真を撮ろう。この前盗撮されていたみたいだし、仕返しで染川さんを撮るのも楽しそうだ。明日こそは、ボートの時のような醜態は晒さないようにするぞ。
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