10人が本棚に入れています
本棚に追加
15日目
放課後、俺は一年生の教室前をウロウロしていた。
というのも、演劇部設立のため、部員を獲得すべく、江永さんに会いに来たのである。
突然押掛けるのもどうかと思ったのだが、江永さんの連絡先を知らなかったし、渋々教室に押しかける形になってしまった。
もう帰っちゃったかな?
「あの〜」
「ひゃい!」
はたから見たら怪しげな雰囲気でキョロキョロしている自覚があったので、後ろから突然声をかけられ、俺はめちゃくちゃ情けない声を上げ飛び上がった。
「あ、やっぱり。若島先輩じゃないですか」
俺がぎこちなく振り返ると、そこには俺が探していた人物が居た。しばらく会ってなかったが、中学の頃から変わらないキリッとした雰囲気と、真新しい着崩れしてない制服がなんとも彼女らしい。
「あ、江永さん。お久しぶりです」
「なんですその他人行儀」
久しぶりに会う人だからどういう温度感で話していいかわからず、つい堅くなってしまった。
「ちょうどいい所にいました。先輩も同じ学校って知ってたんで探してたんですよ」
俺が要件を話す前に、江永さんは淡々と会話を進め、紙を一枚差し出した。
「なにこれ、入部届け……?」
「はい。私今、演劇部を立ち上げようと思ってまして、先輩は既に頭数に入れてますから」
「え! 演劇部?! 俺、丁度その話をしに来たところで……」
なんという偶然! 俺はここまでの経緯を江永さんに説明した。
「そうですか。 良かった、先輩が演劇から離れちゃったわけじゃなかったんですね」
「え?」
江永さんは何だか安心したように呟く。
「それで、先輩とその友達二人で三人。私と、もう一人同じクラスの子で演劇部をやりたいと言う人がいて……」
頭の中で人数を計算する。後輩枠は江永さんとその人で足りてるし、俺の学年も大丈夫だ。となると……
「あとは三年生ですね。先輩、当てありませんか? できれば男性がいいのですけど」
江永さんの指摘は最もだ。演劇、特に宮下さんがやりたがってるのはミュージカルだし、男女比にあまりにも差があるのは良くない。
「当てねぇ……」
一人いるが勝算がほぼ無い。後は徳人の人脈を頼るしかないけど……
部員が多いに越したことはないし、一先ずは部員を募集してみるという事で話はまとまり解散となった。
帰り道、いつものように染川さんと喋っている時、さっきまでの事を報告すると、染川さんは目をキラキラさせ喜んだ。
「思った以上に順調だね! これは部活結成の日も近いよ」
「確かに。ここに来て江永さんも演劇部を作ろうとしてるなんて、タイミングが良いよね」
それにしても、入学してすぐ演劇部を立ち上げようとするなんて、そんな手間をかけるくらいなら演劇部のある高校にすれば良かったのに。江永さんはうちに演劇部がないことを知らなかったのかな? しっかりしてる江永さんに限ってそれは無いと思うけど。
「そう言えばだけどさ、私まだ若島くんの作ったお話、見せてもらってないよね」
「えっ」
すっかり忘れてた……わけではないけど、今度見せると言っておきながらやっぱり恥ずかしくなって、結局見せられないでいた。
「なんか恥ずかしいなぁ」
「演劇部始まったらどうせ若島くんの台本だよ!」
「それはそうなんだけど……」
まあ約束したし、仕方がない。家に着いたらネットに投稿している小説のURLを添付すると言い、染川さんと別れた。
ネットの小説を知り合いに見せるのは染川さんが初めてだった。どんな感想が返ってくるのか、興味半分、恐怖半分だ。
最初のコメントを投稿しよう!