16日目

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16日目

今日も昼休みは中庭でご飯を食べている。徳人は顔を出さなかった。別の友達と食べているんだろう。顔が広いのも大変だな。そんな風に思った。代わりと言ってはなんだけど、江永さんが顔を出してくれた。演劇部に入部希望の同じクラスの人も一緒だ。 入部希望の彼、安丸司くんは、明るくてハキハキしてて、少し徳人に似ている雰囲気がある。 「メガホンは何で演劇部やりたいの? なんかあんたって演劇って感じじゃない」 「オレっすか?! 楽しそうだからっす!!」 メガホンと言うのは、宮下さんが付けた彼のあだ名である。理由はうるさいから。 「私と一緒だね!」 「一緒っすね!」 染川さんと安丸くんが揃うと、いつもの昼休みもテンションが1段くらい高くなってる感じがする。ハイテンション組に対して、宮下さんと江永さんは冷静というか、気持ち引いてるくらいのテンションだ。 「江永さん、安丸くんとは知り合いだったの?」 「いえ、クラスが一緒になっただけで」 「……コトと全然タイプ違うけど、何がどうやって接点持つのよ」 コト、というのは、宮下さん付けた江永さんのあだ名である。詞音だからコト。女子にはマトモなあだ名を付けられるのに、何で男子の扱いはこうなんだ……と、心の中で愚痴をこぼす。 「彼が中々入部届けを提出してなくて先生に叱られていたので、頭数的な意味で演劇部に誘いました」 「打算的……」 宮下さんは少し感心混じりにそう言った。 「後は顧問の先生と三年生かぁ。江永さん、何か考えてたりする?」 江永さんが結構本気で演劇部設立に努めているので、つい頼りがちになる。 「顧問については私のクラスの副担任の先生に交渉中です」 「おぉ……」 本当に行動力が凄まじい。本当に部活が出来てしまいそうだ。 「三年生については、安丸さんにはお兄さんがいるそうで、部活は無所属。部活に所属する気は無いそうなので、最悪名義だけでも貸していただけないか、交渉しているところです」 抜かりないというか、ガチ感というか…… 「そういや染川先輩ってどっかで見たことあるっすよね!」 俺たちが話していた横で、安丸くんが染川さんを見ながら大声で言うので、俺たちも釣られてそちらの方を向いた。 「そうなの? 安丸くんは初めましてだよ」 「ユキの初めましては信用ならない。あんた人の名前覚えんの苦手じゃん」 宮下さんが間髪入れずそう言った。 「えぇ〜。こんな元気な人だったら覚えてそうだけどなあ」 「俺もどこで見たか覚えてないんでお互い様っす!」 「じゃあ初めましてだ!」 二人の会話はどこか抜けてる感じがする…… それで成立してるなら別にいいんだけど。 「それで、若島先輩。三年生があと一人入って、演者が五人。五人で出来る脚本を書いてください。期限は一週間」 「一週間?!」 「新規は無理でも、既存のアレンジとかでいいので何とか」 何?! どうして?! そんなの無理に決まってる。 「まだメンバーも集まってないのに脚本? そんなに急がないダメかな」 「七月四日の七夕祭。そこで演劇部初の公演をやります」 「はぁ?!」 宮下さんが珍しく大きな声を出す。七夕祭とはうちの高校特有の催しで、小規模な文化祭に近いのだが、出店や文化部の発表があり、地域の人も遊びに来る、夏祭りのようなものだ。 「待て待て。待て。一ヶ月くらいしかないけど」 宮下さんが珍しく必死だ。 「本当に小規模なもので構いません。演劇部の活動は、夏の七夕祭と冬の文化祭を目標にしたいんです」 「なら文化祭でもいいんじゃ……」 「文化祭には少し大きい規模で演劇がしたいです。その為には部員が必要。部員の獲得には知人を当るだけでは限界があります。七夕祭で演劇部の存在を知ってもらい、興味のある人に入部してもらわなくては」 そこまで考えているのか。江永さんまさかの熱量だ。でもいろんな演目をやるには協力してくれる人が多い方がいいし、彼女の言うことも一理ある。 「……わかった」 「正気かワカマ?!」 「宮下さんも本格的な演劇早くやりたいでしょ。特にミュージカルやりたいなら人数はそれなりに居ないと」 宮下さんはうーんと悩む。時折、染川さんと安丸くんの方を見て何かを考える。恐らく、演劇初心者の二人を案じているのだろう。 「そーね。目標も無いとキツイもんな。わかった。やってみっか」 と、言った上で、脚本に対して条件を一つ儲けた。それは童話や昔話のような馴染みある話からリメイクすること。全く知らない話より演じやすいからってところだろう。宮下さんはなんだかんだ言って周りに気を配れるところがある。 「題材だけでも決まったら先に通達してください。原典の読み込みは重要ですからね」 江永さんがそんな事を言う。やる気満々って感じだ。 俺も負けてられない。早速帰って題材を漁らなくては! 久々の演劇に、俺も思わず意気込んでしまった。
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