18日目

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18日目

夜、赤ずきんちゃんの台本を執筆していると、染川さんから連絡が来た。 「若島くんの小説読んだよ!」 最近、演劇部のバタバタがあって、帰宅後は連絡が疎かになっていたし、学校にいても演劇部の話ばかりで、自分の小説を紹介した事をすっかり忘れていた。 俺が返事を書く前に、長文の感想が届く。何が書かれているか、少し怖いが気になる。 「すごく面白かったよ!」 最初にこの一文があるだけ救いだった。勝手なイメージかもしれないけど、染川さんは面白くないものにはスパッと面白くないと言い放ちそうな感じがする。本人を前にしても躊躇なく言いそうなイメージがある。 「特に好きなところは、一番最初から旅してきたパートナーのパティちゃんが主人公をかばって死んじゃったところ! 若島くんの小説は結構人が死んじゃうけど、パティちゃんが死んじゃった時だけ主人公が放心状態になって冒険をやめようとした所とか、悲しくって一緒に泣いちゃったよ」 これほど作者冥利に尽きる感想は無いだろう。このシーンは俺も特に気合を入れて書いたシーンだったし、そう言ってもらえたらめちゃくちゃ嬉しい。 「やっぱり人が死んじゃうところって一番劇的だよね。誰かが死んじゃった後の物語って辛くて悲しくて寂しいけど、それで心が揺れたり、人間の本性みたいなのが見えるのって、物語で一番面白い場所だと思うな!」 そんな文で感想は締めくくられていた。染川さん、案外ブラックなことを言うな。そんなふうに思った。実際、物語でキャラが死ぬシーンは衝撃だし展開的に盛り上がるところだけど、まさか一番面白いと言うとは思わなかった。すると、続けて 「若島くんもそう思う?」 と送られてきた。別に死ネタが好きなわけじゃないけど、正直キャラが死んだら盛り上がるだろうと甘えている部分もある。実際、染川さんに読ませた小説も、結構キャラクターが死ぬ。涙の別れとそれを乗り越える成長と勇気は物語のフレーバーとしては書きやすいし面白く見える。 「まぁ、そうかもね。さすがに罪悪感はあるけど」 そう返した。それ以降返事が来なかったので、俺は演劇の台本に集中した。
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