4日目

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4日目

「若島くんおはよう!」 今日も朝のホームルーム前に、染川さんのクラスに顔を出した。 周りの視線がちょっと恥ずかしい。 染川さんは例のギャル女子と喋っている途中だったようで、少しタイミング悪かったと思った。 「おはよう。ごめん、会話中に。じゃあ後でね」 「ちょっと待ってよ、彼女にそんだけ?」 早めに切り上げようとしたらギャル子が俺を呼び止めた。俺なりに空気を読んだつもりが逆効果だったらしい。 「あ、いや……悪気があったわけじゃ。二人、話してたみたいだし」 「いいのいいの、あっちゃんにもちゃんと紹介したかったしさー」 染川さんはそう言って手招きするので、俺は渋々二人の会話に参加する事になった。 「こっちはあっちゃん。宮下温和ちゃん。温和って書いてあつなって読むの、可愛いよね。あっちゃんとは小学生の時からの幼馴染なんだよ」 楽しそうに幼馴染の紹介をする染川さん。自分でも驚きだが、まさか彼女より先に彼女の幼馴染のフルネームから知ろうとは。絶対普通の恋愛じゃ有り得ない。 「こっちは若島透真くん。名前韻踏んでるのすごいよね」 俺の紹介それだけ?! と思ったけど、確かに染川さんは俺の情報そのくらいしか知らない。というか名前韻踏んでないし…… 「いや別に韻踏んでないべ。踏むんだったら若島ワカマとかだろ」 それだって踏んでなくないか……? てか何だよワカマって。あとツッコミどころおかしくない? 染川さんの幼馴染だし、やっぱちょっとズレてんのか……? 「ワカマは何でユキが良かったわけ? アンタら特に接点ないんでしょ? 一目惚れ?」 「いや何だよワカマって! せめて若島じゃない?」 ん?というか、今重要な情報言ったような……? 「今染川さんのことユキって言った?」 「ん? そだよ。幸ーー」 「わー! わー! ダメ〜! 言っちゃダメ〜!」 危うく名前をバラされそうになって、染川さんは大声を上げた。宮下さんがめちゃくちゃ不審そうな顔をしている。 「は? なに?」 「クイズやってるの。私の名前当てクイズ」 「クイズって……アンタらそっからなの……?」 そうなんです。そこからなんです。 名前すら知らない相手に告白したと悟った宮下さんが、めちゃくちゃ殺意高そうな眼光で睨んでくる。幼馴染に悪い虫がついたと思われてるんだろう。確かにそんな奴を彼氏と紹介されたら誰だって不審がる。 「アンタ……何が望みなわけ? ユキも、こんなのでいいの? 言っちゃえば知り合いですらない奴だと思うんだけど?」 さすが染川さんの幼馴染。言うことはズバッと言う。 「いや、望みとか無くてですね……どっちかって言うと……」 「若島くんは私に付き合ってくれてるんだよ。私が自殺しようとしてた時止めてくれたの」 俺が必死の弁明をしようとしたら、横から染川さんが口を挟んだ。 「自殺……?!」 宮下さんは染川さんの口から自殺という言葉が出て絶句していた。そりゃそうなる。幼馴染が死のうとしてるなんて思いもしないだろう。しかし、宮下さんから出た言葉は、俺が思っていたリアクションと違った。 「アンタまた……」 また……? 「マジでいい加減にしなよ。それホント面白くないよ」 「え〜?」 またってなに? この慣れた感じは……? もしかして常習犯なの……? 不意に宮下さんと目が合う。さっきまでの鋭い敵視はなくなっていて、なんというか警戒を解かれた感じだった。 「幸羽が迷惑かけたみたいじゃん。ありがとねワカマ」 なんか野生動物の群れの長に、認められた感じだった。 ん? というか、今重要な情報があったような……? 「ゆきは? ゆきはって言った今?!」 「あーもうあっちゃん! 言っちゃダメだって!」 「アンタが悪いんだからね! これはワカマへの報酬的なもん!」 「えー?!」 こんな感じでようやく染川さんの名前を知ることが出来た。これでやっと知り合いのスタートラインに立てた感じがした。 「というかそのワカマってやめない……?」 「いーじゃんワカマっぽいし? しばらくはユキの面倒よろしくな」 そう言って宮下さんは二マッと笑った。その横でクイズのネタばらしをされてしまった染川さんが少しむくれた顔をしている。 少しだけ、染川さんとの距離が縮まったような気がした。
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